第6回研究大会報告

 
平成29年5月24日(水)、東京海洋大学白鷹館で第6回研究大会を開催しました。
151名の方々にご参加頂き、盛況のうちに終了させて頂くことができました。
ここに、開催概要をご報告致します。


 挨拶及び趣旨説明 ビジネスモデル研究会会長(岩手大学) 後藤 友明




 第6回ビジネスモデル研究会研究大会に多くのみなさまがご参加いただいたことに感謝申し上げる。
今回の第6回大会は、沿岸漁業における「衛生・鮮度・品質」の価値をテーマとした。漁獲物の最初の窓口となるのは産地の魚市場である。近年はHACCP対応型の新型魚市場の建設が各地で進み、安心・ 安全を担保する形で生産物を消費地へ届ける取り組みがなされている。一方で、これまでの大会から消費者として鮮度や高品質ということが魚を選ぶ上で一つのキーとなっているという意見が聞こえている。そういった中で、生産地と消費者の思惑が一致するというところがあると思う。今回は特に産地で行われている「衛生・ 鮮度 ・品質」の管理について、どういった思惑で行われていて、どういった取組を進めていくことが必要なのかということにポイントを絞りながら、みなさんで意見交換・議論を進めていきたいと考えている。
 これまでの第3回から第5回の研究大会では、生産者、流通・販売事業者、消費者の3つの関係をひとつひとつ解きほぐすように進めてきた。生産者と流通・販売事業者は連携したパートナーシップが必要であるという意見が出され、生産者と消費者の関係性を結ぶものを生産者側から考えると、これまでの大会から出てきたキーワードは「鮮度 ・品質」となる。その中で高鮮度・高品質の沿岸魚を多くの消費者に届けるための産地の取組を消費者へ訴えかけていくことが重要であると考え、今回の大会の開催に至った。 鮮度と品質の良さは安心と安全に裏付けられる。これまでさまざまな魚市場の取組として、高度衛生管理の基準を満たすような新たな魚市場建設が進んでいる。これまでの流れでは、他の産地との差別化を 図る優位性として用いられることが多かったが、同時にこういった取組は鮮魚流通販売の義務としても存在しているだろう。そういったものが成り立つ形で、官民一体となって高度衛生管理魚市場の整備が進められているが、一方で、それに乗り遅れた市場が存在し、優位性から取り残されてしまうという問題も出てきている。今後、日本全国の地域の沿岸魚を日本全土に万遍なく届けるためには、産地間格差を解消した上で優位性を作り上げていくことが求められていく。その中で、今回の研究大会では、「衛生・ 鮮度・品質」に求められるものはなにか、産地はいかにそれを活かしていくかということを議論したいと思う。



 基調報告「水産物の衛生と鮮度と品質」 東京海洋大学 濱田 奈保子



 健康食ブームと日本食の世界無形文化遺産登録による影響から世界的に水産物の評価は高まっており、この50年間で消費量は倍増している。一方、我が国においては、人口減少、高齢化、食の嗜好変化等の影響により水産物消費は減少し、近年では一人当たりの年間消費量は1990年代の8割以下となっている。最近の消費者は節約志向で、価格を重視した購買行動をとりつつあるが、安全・安心を含め品質も重視しているという調査結果がある。(財)流通経済研究所の「消費者店舗選択調査」によれば、食料品を購入する際に重視する要素として、80%の方が価格が1割以上高くても国産品を選択し、73%の方が鮮度が高ければ1割以上高くても選択すると回答している。
 品質・衛生管理と一言で表現されることも多い言葉であるが、我が国は水産物を生で食する食文化を有しており、刺身で食べられる鮮度(生食可)かどうかという評価が重要であったため、鮮度を維持するための取扱いが優先されてきた感がある。一方で、水産物の海外輸出については、EU・HACCPのように高度な危害分析と管理が求められる傾向にあり、グローバルスタンダードの衛生管理と日本型の鮮度優先の概念の違いから、鮮度が良い高品質の我が国の水産物が輸出できない場合もあり、現場では誤解も生まれている。これは、諸外国が水産物輸出に際して求める「衛生」と我が国の消費者が水産物に求める「品質(鮮度)」の違いに起因するものと思われる。本報告では、衛生管理を「人々の健康を損なわない水産物の取り扱い」、品質管理を「鮮度を持続させるための取扱い」と定義して話を進めていくこととする。
漁業、養殖業ともに食品としての安定的な生産とともに安全な水産物の提供が必要であり、最終的には人の口に入るという観点にたてば、漁獲からはじまる衛生管理をどのようにするかについては、漁獲から消費に至るまでの過程に関与する全てのステークホルダーが参加して考えていかねばならない重要な課題である。
 本報告では、安全な水産物を消費者に提供するために、発表者らが開発した積算温度と鮮度及び消費期限を可視化するツール(バイオサーモメーターと呼称)を生鮮魚介類の流通に導入することによる適切な品質・衛生管理のあり方と水産物のブランド化につなげる試みもあわせて紹介する。



 
 情報提供 「生産段階から流通段階における衛生管理と鮮度保持の取り組み
                         (茨城県久慈浜地区小型底びき網の例)」
                                   開発調査センター小河 道生


 小型底びき網漁業を対象とした事業は、茨城県日立市久慈浜地区をモデルとして、平成25年度より着手した。当該事業は、対象資源の状態を把握し、資源を有効に活用するための操業の効率化を行うと同時に、漁獲物の価値を最大限に引き出すために流通販売方法について検討を行うものである。
 事業の一環として、茨城県日立市の久慈地方卸売市場で水揚げを行う久慈町漁業協同組合所属の小型底びき網漁船の漁獲物の価値を高めるための方策について、海洋水産システム協会、茨城県水産試験場と連携して、現地の漁業関係者とともに生産から流通販売までの生業の中で、以下の実証調査を行った。
 船から水揚げされた漁獲物の鮮度をより良い状態で消費者に届けるためには、衛生的な市場であることが重要だが、旧来型の一般的な産地市場の中には、柱と屋根だけの開放型施設であり、漁獲物の取扱がほぼ土間置きに近い状態で、かつ、魚箱や床面等は消毒が殆ど行われておらず、臭いやぬめり等の残った不衛生な市場も存在し、漁獲物の品質を低下させる一因として懸念されている。本事業の舞台となっている久慈地方卸売市場も以前は、こちらの部類の産地市場であった。これを改善するために、まずは、市場流通工程における衛生調査を実施して、科学的な根拠に基づいて食中毒性細菌における危険箇所を指摘した。その対策として、軽量且つフラットな形状で衛生的な管理が可能であるテクセルパレットを(産地市場では初の導入事例)漁業者の選別や仲買業者の立替用作業台として試験的に導入を行った。このことにより、選別作業の軽減や長年来の衛生面における課題であった漁獲物の土間置き等が改善できることを実証した。また、電解水生成装置のデモ機を試験的に導入して、魚箱やパレット、床面等の洗浄及び消毒の取り組みを始めた結果、臭いやぬめり等の問題が解決され、漁業者や仲買業者から衛生的な器材を使用することの理解が得られ、現在では、パレット上での選別、カゴの洗浄などが、自発的に行われるようになった。さらに、同市場は開放型の施設であるが、昨年、同漁協の自主的な取組みにより施設全体に防鳥用のネットカーテンを設置した。中古のネットを手配して地元業者に依頼することで、格安の設置費用を実現している。このことにより、鳥の侵入のみならず、部外者の立ち入り防止効果が確認されるなど、漁業関係者から高い評価を得ている。以上の試みにより、衛生管理を行うには、大規模な市場の改善ではなく、意識を変えることの重要性が示された。
 地元の小型底びき網漁船では、漁獲物の鮮度保持のため、船内に冷海水装置を導入している。品質を管理するうえで、温度管理は重要な事項であることから、本事業において、用船調査の時期に、有用魚種に対して小型温度計を複数個体に取り付け、船内~水揚げ~選別~販売~流通の各工程の魚体温の温度履歴の追跡を行った。その結果、陸揚げ後に温度が上昇する工程を特定した。同時に温度が漁獲物に与える影響を視覚的に漁業関係者に伝えるために、本事業においてサーモグラフィー(産地市場では初の実証試験)を導入した。現在では茨城県に同手法が導入されている。また、温度上昇を防止すると同時に高鮮度保持のための具体的な手法としてシャーベットアイスによる実証試験や鮮度の可視化技術の開発などの流通試験を行った。これらの取組の結果、茨城県内漁業関係者の漁獲物に対する鮮度保持の認識は格段に高まった。
 今後は、これらの取組は、現場主導で引き継がれることを期待している。  
 


 
 


 パネルディスカッション
     ~産地市場が取り組む品質・衛生管理の意義と在り方について~



  司会進行 岡野 利之(海洋システム協会)

  ①大規模産地:石巻魚市場社長 須能 邦雄

  ②小規模産地:磯崎漁協参事 小林 義則

  ③離島遠隔地産地:奄美漁協参事 原永 竜博

  ④行政:高知県水産振興部主査 岡見 卓馬

  ⑤消費者:海洋大プロジェクト研究員 中澤奈穂

  ⑥専門家:東京海洋大学教授 濱田 奈保子




情報提供:岡野

・産地市場の衛生管理の効果として、腸炎ビブリオの患者数の激減時期と産地市場への殺菌海水装置の普及が同時期に起きていることがあげられる。

・HACCP義務化の移行について、2018年に食品衛生法の改正案が提出され段階的に導入予定。

・石巻魚市場では、新市場開業とともに衛生管理マニュアルを作成した。衛生管理上の共通ルールを作成し、何がだめで何がいいかを明確に定義した。

・衛生管理情報・商品情報のIT化が進んでいる。

・特定3種漁港(13港)の全てが高度衛生管理に取り組みはじめている。

・2016年の8月までは豊洲市場が高度衛生管理市場として開場する予定もあり、対豊洲を想定して各地の多くの魚市場が品質・衛生管理に向けた取り組みを実施していた。

・優良衛生品質管理市場・漁港認定(認定機関:大日本水産界)をHACCPの市場版として活用してもらいたい。

・HACCP認定加速化支援センターとして、品質・衛生管理に関わる講習会・研修会・現地指導を実施しているので気軽に相談してもらいたい。



岡野:

はじめに消費者の立場でご参加頂いた中澤様に、水産物を購入する際に衛生・鮮度・品質について気にしているか、また購入の理由になるかを聞きたい。

中澤:

やはり気にする。自分が食べるだけではなく、家族も食べることが重要。特に抵抗力の弱い子供に、危害があるものは避けたい。例えば、店でドリップが出ていたり、変色しているものなどは気がつくので避けるようにしている。しかし、衛生状態の良し悪しに関しては消費者には見分けがつかないので、店や産地を信頼するしかない。

岡野:

産地関係の方にお聞きする。産地市場として衛生管理に取り組む理由は?

須能:

消費者の関心に加え、石巻で取引をしているバイヤーも関心をもっている。そのため、バイヤーに対して市場の見学会を行い、市場での配慮を見せるとともに、作業者も商品を取引する相手を意識することにより、作業の改善が図られている

小林:

主に東京の築地に共同出荷しているが、昨年、豊洲市場が高度衛生管理対応型市場となるため、産地として対応した。また、現地で、直販事業を行っており、安全・安心な魚を買ってもらうため、衛生管理に取り組んでいる。

原永:

年々島内の消費が減少していることから島外の業者との取引に力を注いだ。その中で特定の取引相手と安定的に取引するには鮮度・品質管理に十分配慮する必要がある。特に若い漁業者が中心になって、他の地域に負けないようにと力を入れて取り組んでいる。

岡見:

行政として、市場の衛生管理については消費者の安全・安心ために取組んでいる。衛生管理が当然となるような体制が大事だと考えている。水産業界の中には、これまで意識をされてこなかった人もいるので、そのバックアップをしたい。それが魚価向上につながればいいが、まずはそれが当然となることを目指していきたい。

岡野:

離島、遠隔地のデメリットは?

原永:

一番は島内消費が減少していく中で、島外に目を向けた際に、出荷して届くまでに時間がかかること。そのなかで自分たちができることはなにかを考え、組合員が活き締め・血抜きや殺菌低酸素水、紫外線殺菌水を使って鮮度を保っている。やはり遠隔地ゆえに時間がかかるということが、デメリットになっている。

岡野:

市場の衛生管理に取り組む上での課題と対策は?

須能:

シアトル2年、サハリン、モスクワに3年にいたが、当時、アメリカもロシアも衛生管理概念が低かった、日本はもともと生魚を食べるため衛生管理の概念は国民性として高かった。しかし、HACCPは、もともと最終生産品に何か問題があった際に、原料の段階から順を追って責任がどこにあったかという考え方で、EUが導入した際は外国からの輸入品を拒絶するのではないかとうがった見方もされた。ただ、国内の消費が減る中で、海外マーケットを目指す際には相手国に合わせなければいけない。また、HACCPの根底にあるのは欧米の性悪説的な考えがあり、日本は性善説をとることが多くHACCPを導入するためには価値観の違いを認識することが必要ではないか。単に海外からこれはいいものだと言って導入しようとしたため、これまで日本でうまくいっていないのでは。石巻魚市場は、震災により被災し、一からすべてを作り直さなければならなかったため導入が進んだ。コンセンサスも大事だが、緊急時にはトップダウンで行うことも必要。もちろんその際には、高圧的に進めるのではなく、ひとつひとつ丁寧に時間をかけて進めていくことが重要。

小林:

石巻も同様かと思うが、中澤さんから消費者の立場で衛生管理と安全・安心というコメントがあったが、消費者に対して我々の衛生管理をどう伝えていくかが問題。まだまだ衛生管理に取組んでいる市場が少ない中、それを売りにするために実際に市場で行っていることにどう関心をもってもらうか、どうPRするかが今後の課題。

岡野:

大きな市場と小さな市場でも衛生管理について共通する課題がある。例えば、市場従業員だけでなく漁業者や仲買の協力が必要になるが、普段、ライバル関係にある漁業者や仲買同士の合意形成は簡単なことではない。その中でどうやって合意を取り付けたのか?

須能:

古い考えかもしれないが、日本人のコンセンサスの根底は飲みニケーションではないか。石巻では意識的に飲み会の機会を設けて、極力リーダーの立場の人には参加してもらい、色々な話をしやすい人間関係を作っている。特に、石巻は震災の影響で5万tの魚が腐敗した。その際に、震災で失業した人達をその処理のために雇用した。このような仕事はだれも経験がなく、みな一丸となって働き、この仕事を通して風通しが良くなった。他の地域でも祭りなど、それぞれコミュニケーションツールがあると思うので、それを利用して丁寧に人間関係を作ることが大事。

小林:

漁業者とは話し合いをして協力を願った。磯崎の場合は、もともと高床式で密閉式市場だったため、漁業者に違和感なく浸透したのではないか。また、震災により市場の半分が浸水したことにより、設計の段階で高床式にすることに反対はなかった。加えて、豊洲移転により、将来的に産地にも衛生管理が求められてくるということがあったので理解を得られた。

岡野:

ビジネスの観点から衛生管理は必要か?

須能:

市場間競争の点でセールスポイントがあるということで優位に立てる。取引先へ魅力ある市場であると伝えることが、仕事や取引につながっている。加えて、直接取引している業者からその先の業者へ情報が伝わることもあると考え、積極的な情報開示を行っている。また、こちらが知らない技術などの情報交換が行われることにより、市場がビジネスの場を提供できることで、町全体に波及効果があると考えている。

小林:

私共は共同出荷と直接販売を行っており、県内で唯一の衛生管理市場ということを消費者の方にわかっていただける努力をしている。また、同じ漁港施設内に茨城県で唯一のアワビの畜養施設をもっていて、直販や観光バスを誘致している。そのような人の流れをいかに活用するかが課題。

原永:

もちろん品質・衛生管理は必要だと考えるが、現在使用している建物は老朽化が進み、石巻や磯崎のような衛生管理型市場にするのは難しい。ただ、その中でも鮮度保持・衛生面では出来る限りのことをしているということを取引先に伝えている。また、新しい取引の開拓や新しい魚種を送る際には、見た目も大事だが鮮度保持や衛生面のアピールとして、刺身で食べてもらうためのサンプルを送っている。

岡野:

新しい取組に対して、具体的な行動を起こすための決断の後押しとして何が必要か?

須能:

水産業を全体的にどうとらえるかということが大事。今の社会は、マネー資本主義と里山資本主義に分かれる。この研究会には、水産業は自然産業であり、金だけで判断するだけでいいのかという認識のもと、理論的に後押しをして欲しい。また、社会的共通資本という意識をもって、強い公的な政策の裏付けがないと小手先の対応しかとれない。余談だが、明治以来の官僚制度が変わっていない、農林水産省の水産物の管轄は陸に上がるまでで、上がったものは扱わない。缶詰等の加工品は水産加工品ではあるが、中小企業庁の管轄となっている。現在は、かつて無かった産業が存在し、それを後押しする行政の力が必要。また、コンセンサスを得るために県や市町村で専門職を育成して、第三者の立場から説明して欲しい。官民一体となる強い姿勢が望ましい。

小林:

やはり、行政の指導が大きな問題だと思う。茨城は、どちらかと言えば衛生管理型市場について後進的であるイメージがある。どこでも同じ値段であることが生産者として経営上厳しい。そのため差別化が必要だが、一企業としてできることは限られており、行政の後押しが欲しい。新しい取組を行う中で、行政の力を借りたい。

原永:

施設や事業など金額が大きいものは、行政の後押しがないとできない。ウルトラファインバブルや砕氷機、紫外線殺菌装置など必要なものを一度にそろえることができないが、これらの設備は先行投資として必要なものであるということを漁協役員と漁業者に理解してもらえたことから整備が出来た。

岡野:

行政の立場から現場の意見・要望はどう把握するのか?高知県の事例は?

岡見:

意見・要望は漁協の組合長や参事など上のほうの方からくる。しかし、意見や要望をどういった趣旨なのかきちんと把握するには、ありきたりかもしれないが、現場に足しげく通って漁業者や市場の方から聞くことが大事と考える。しかし、高知県は東西に広く、物理的・地理的な問題もあるので、各地の漁業指導所が情報を整理した上で意見や要望を正確に把握できるように努めている。

岡野:

施設等のハード面については行政の後押しが必要という話であったが、高知県の産地に対する支援はどの様なものか?

岡見:

市場の衛生管理については、協議会を立ち上げ、そのなかに委員として参画している。また、市場施設整備や建替え等相談があればアドバイスさせていただいている。また、大日本水産会の認定を受けるための経費についても、県の補助事業として対応したこともある。今年からは漁業指導所に協力してもらい、菌の拭き取り調査を実施し、すでに認定を受けている市場では意識の向上を、周辺市場には波及効果を得られるように取組んでいる。

岡野:

現場との情報共有や協議会への参加という話があったが、現場の人と信頼を築くためには何をしているか?

岡見:

前提として信頼が築けているかということもあるが、先ほど須能社長もおっしゃっていたが、高知県民もお酒が好きな人が多いので、一緒に飲みに行き、胸襟を開いて話をしてもらうことが一番大事。これはもちろん業務外の話だが、業務内で気を付けていることは、行政はどうしてもあれしてこれしてばかりになってしまうことが多い。相手のために何かひとつでもできるようにと意識して現場に入るようにしている。そうしていくことにより、多少なりとも信頼関係が築いていけるのではないか。

岡野:

高知県庁では積極的に動くことについては推奨されているのか?場所によっては余計ないことをしないようにと心配する地域もあるのでは?

岡見:

そこはやはりバランス感覚を磨かないといけない。言い方は難しいが、適度な距離感をもって、少しでも近づきたいが、近づき過ぎないようにバランス感覚が必要。

岡野:

濱田先生にお聞きする。衛生の高度化に関する研究者としての立場から、今日のパネリストの皆様の話の中で気づいたことは?

濱田:

大変難しい質問だが、水産業は多くの人がかかわっていることを忘れがちになっている。技術の社会実装が必要だがそれが難しい。関係者にどのように伝えるか、現場にどのような問題があるかを常にお互い情報交換しながら進めていかなければならないと改めて感じた。

岡野:

中澤様にお聞きする。熱意をもって地域産業の活性化に取組んでいる市場のお話を聞いて、市場ごとの魚の取り扱いの違いを認識していただいたかと思うが、その状況で大事に扱われた魚とそうでない魚どちらを選びますかと聞かれたらどの様に答えるか。

中澤:

もちろん大事に扱われた魚を選ぶ。

岡野:

その上で、各産地の取り組みをどう思うか?

中澤:

今日お話を聞いて、各産地の取組についてよく理解できた。ただ、一消費者の立場から考えると、行動範囲内の近所で買えることや家計の制約が判断材料としてある中で購入している。日常的に良い品質のものを買えるかは住んでいる地域などの条件により異なると感じた。しかし、選べるものなら良いものを選びたいと感じている。子供が魚好きになるかどうかは、親が何を選択して食べさせるかということがとても重要で、責任を感じている。できる限り良いものを選択できる環境をつくりたいと思っている。

岡野:

消費者に対して水産物の需要拡大、購買意欲を促進させるのに必要なものは何だと考えるか?

中澤:

魚を購入しようとする際に、旬を外しれているものを知らずに購入するなど、当たり外れの落差がある。そこのミスマッチを無くして、安定した品質であって欲しい。調理する敷居が高いと思われないように、冷凍を含め使いやすい製品や保存法を含めた情報が欲しい。また、今これを買うと良いという情報やアピールがあると、今これを買わなきゃという気持ちになる。

岡野:

最後に濱田先生にお聞きする。現場と研究機関が連携して課題に取り組む必要性についてどのように考えるか?

濱田:

先ほどのコメントとも重複してしまうが、水産業の研究の特徴は、現場と切り離して課題設定が出来ないことにある。ややもすると、大学も含め研究機関は机上の空論の研究になってしまう節があり、それでは水産業もなかなか発展しない。水産業に係るすべての人が現場の課題を設定し、連携して取り組むことが重要だと考える。
会場からの質問・意見

会場:

高知県にお聞きしたい。衛生管理という点では各地元に保健所が必ずあると思うが、保健所となにか連携は模索しているのか。

岡見:

拭き取り検査にあたって、ATP検査のほかに細菌検査を予定しており、行う際にアドバイスをもらおうと考えているが、実際に一緒に現場に入るということは現時点ではない。

会場:

先ほどの討論の中で、石巻と磯崎市場では閉鎖型市場を建設したとの話があったが、他方で奄美漁協からは施設が老朽化して高度衛生管理の施設を作っていくことが課題という話があった。地元の小田原でも市場の老朽化・整備が課題のひとつである。そこで、濱田先生に聞きたい。HACCPはハードよりもソフト面だと認識している。管理点を設定して危害分析を行い、危害が発生した際の適切なマニュアルを作成してそれに従って管理し、記録していくことがHACCPの定義だと認識している。したがって、高度衛生管理型施設が無いからといってHACCPができないということは無いのではないか?もちろん危害の防止や発生した際に適切に対処するためにそのような施設あれば、より高度な管理ができるという面もあるが、既存の施設でできるHACCP対応があると考えるがどうか。一番大切なのは施設ではなく、管理する側の意識ではないか。

濱田:

まったく同じ考え。いくら施設を整えても働く人が理解して納得して行わないとだめ。衛生管理も、10年ほど前には、それをやったからすぐに魚の値段が上がるわけではないし、今までのやり方で食中毒もでていないのでやる意味はあるのかと言われていた。しかし、かなり意識が変わりつつあり、施設がなくてもそこに働く人の意識が高まり、衛生管理が必要という考えがあれば、莫大なお金をかけず、施設を作らなくてもできるではないかと思っている。

岡野:

よろしければ、岡見様から室戸の例を話してもらいたい。

岡見:

高知県内で3市場が優良衛生品質管理市場・漁港の認定を受けている。そのうちの室戸岬市場は規模も非常に小さいが、大きな改修をせずに職員の意識を高めたことにより認定、更新の際に高い評価を得ている。おっしゃる通り、職員の意識が施設などのハード面よりはるかに大事だと実感した。

岡野:

最後にパネリストの皆様から一言ずつ感想をお願いしたい。

濱田:

今日は有意義な議論ができた。ありがとうございました。

中澤:

今日はありがとうございました。知らなかったことばかりで勉強になりました。

岡見:

ありがとうございました。今日は、全国の色々な事例を聞かせてもらったので、これを行政として、飲み会の場も含めて、地元にフィードバックしたい。

原永:

ありがとうございました。鮮度保持に力を注いでいたが、その先には衛生管理がある。それを意識することにより、さらなる鮮度保持につながると感じた。職員の認識が大事ということを感じたので、帰ってからまた今できることをやっていきたい。

小林:

本日はありがとうございました。初めてこの研究大会に参加させてもらったが、皆さんの意見を聞いて、これからの我々がどういった形で進んでいくかということに大いに参考になった。

須能:

本日はありがとうございました。こういう場を設けてもらい初めて衛生管理について全体的に頭の中で整理ができた。私自身の経験で、印象に残っていることに、石巻の沖合底曳でイカの品質管理ため鮮度保持について生産者と買受人が一緒に勉強会をやった。その時に、生産者は陸揚げした際にトラックの中に氷が残っているほうが鮮度管理されていると思っていた。一方で、買受人は氷の表面積が多い細かい氷がよく、氷が残っていないほうがいいと思っていた。このような意識の違いを知って目から鱗が落ちることはよくある。今日一番感激したのは、小田原市の方からの質問とそれに対する濱田先生の回答で、本当に大事なのは、HACCPはどういった理念の基に行われているのか本質を理解して行うことが必要ということだった。なぜこういう提案がなされたのか、誰のためにやるのか、どういう発想から生まれたのか本質の見極めが大事。日本でHACCPが定着しなかった要因の一つに、建設業界が食品会社にHACCPに対応するために工場を建替えなければならないといってきて、建替えた業者は柔軟に対応できなく潰れていったということがある。第三者の意見には、その人の利益のためと思っていることがあるが、誰がなんのために必要なものなのか、本質を見極めることが大事。HACCPは施設や機械の問題ではなく、人間の問題である。ただ、手に負えない部分は機械を導入するしかなく、その見極めが大事ということを皆さんに理解していただき、私自身も再認識できてよかった。

岡野:

最後にひとつだけ全体を通してコメントをさせて頂く。本日、開発調査センターの小河様から久慈浜の取り組みについて紹介があった。久慈浜についても旧式の設備であるが、現場の意識が変わることと、わずかな投資で衛生管理が実現できた事例の紹介であった。久慈浜では20年以上漁業者と仲買人が同じテーブルに着くことが無かった。こういった利害関係にある漁業者と仲買人の仲が悪いという関係は良く聞く話である。そのなかで唯一共通の話題としてテーブルに乗せることができたのは、品質・衛生管理のテーマだった。取り扱う魚を良くしたいという思いは、漁業者、市場、仲買人の皆が持っていた。そういった意味で地域がまとまらないところでも品質・衛生管理をテーマにすれば、もしかしたらまとめられるかもしれないという期待を持っている。本日は誠にありがとうございました。





 閉会挨拶 開発調査センター所長 加藤 雅丈



 今日は沿岸漁業における「衛生・品質・鮮度」管理ということで研究大会を開催させていただいた。こんなにも大勢の方に、長時間にわたり熱心に討論いただきありがとうございました。また、パネリストの皆様、司会の岡野さんにもお礼申し上げる。
 濱田先生のお話にあったが、多様性という点で、魚の種類だけでなく漁業種類、関わる人と色々な要素があり、多様性の掛け算のような形になっているのが沿岸漁業だと思う。その中でハードに加え、人を含めたソフトの部分について、色々な状況があるが、願わくば今日出された意見や情報が、それぞれの地域の沿岸漁業のなにがしらの発展に繋がっていくことができれば幸いである。
 
 本日はありがとうございました。



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