第5回研究大会報告
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沿岸域における漁船漁業ビジネスモデル研究会
研究大会・シンポジウム
第5回研究大会報告
沿岸域における漁船漁業ビジネスモデル研究会 第5回研究大会
沿岸域における漁船漁業ビジネスモデル研究会 第5回研究大会
沿岸漁業のビジネスパートナー
沿岸漁業のビジネスパートナー
ー地域のスーパーと沿岸漁業の連携は如何にあるべきかー
ー地域のスーパーと沿岸漁業の連携は如何にあるべきかー
開 催 報 告
開 催 報 告
平成27年11月30日、東京海洋大学白鷹館に於いて第5回研究大会が開催されました。昨年より多い184名の方々にご参加頂き、盛況のうちに終了させて頂くことができました。
ここに、開催概要をご報告致します。
第一部 基調講演「水産物小売の現代的状況と課題 〜ローカルスーパー調査から見えてきたもの〜」
佐野雅昭(鹿児島大学)
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近年は食の簡便化志向が強くなっていることから、主食的調理品や冷凍食品の消費は増加したが、一方で、調理に手間を要する生鮮魚介類の消費は減少している。現在、若い人ほど食の簡便化志向が高く、食にかける支出金額が少ない。 チェーンオペレーションにより魚売り場はもはや魚置き場となってしまった。水産物売り場における経常利益率は、GMSよりもローカルスーパーの方が高い。GMSが失敗した要因は、低価格追求と過剰な人員削減である。
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ローカルスーパーは価格競争ではなく価値競争を行い、小売圏の優良顧客を多く獲得すべきである。生鮮魚類の売り上げが高いスーパーは、人件費をコストでは無く投資と考えている。
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国産水産物の魅力は「多種多様」「新鮮」「味(おいしさ)」である。
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国産水産物の消費減少の原因は、量販店の台頭により対面販売の機会が喪失したことだ。
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ローカルスーパーは、多種多様な沿岸魚の魅力を語れる専門性の高い人材を育てるべきである。
第二部 パネルディスカッション
司会 岡野利之(システム協会)
パネリスト
齋藤 仁((株)マイヤ)、中村義昭((株)エレナ)、山口憲一郎(鹿児島市水産物卸売協同組合)、泉澤宏(網代漁業)、
佐野雅昭(鹿児島大学)、後藤友明(ビジネスモデル研究会)
左から、岡野、佐野、泉澤、山口、中村、斎藤、後藤(敬称略)
テーマ1 「沿岸魚に対する消費者ニーズをどう見るか」
岡野氏
岡野
「沿岸魚に対する消費者ニーズについて、議論していただきたい。」
佐野
「消費者は新鮮で美味しい物を食べたいと思っている。美味しさ、食の豊かさを提供することが小売業の使命ではないか。」
中村
「スーパーの水産物売り場の地物コーナーは、鮮度、季節感をアピールすることが出来る格好の場。対面販売することは魅力だが、人件費がかかる。」
斉藤
「エビ、カニ以外の魚介類の需要が下がっているとは感じないが、購入客単価は下がっており、イベント時と日常で購入金額の差が激しくなっている。」
岡野
「仕入の際、どの魚種を揃えるかは上層部で決めているのか、それともバイヤーの判断で決めているのかお聞きしたい。」
中村・斉藤
「自社ではバイヤー個々の判断で、その日の仕入れ魚種を決めている。」
山口
「私の地域では、店側で決められた物だけを購入していく傾向。臨機応変に購入してくれないかと思っている。その日の良い物を選んで購入してもらいたい。」
泉澤
「自社では、六次産業化の取り組みの一環で漁獲物の販売、飲食店の経営も手がけている。魚の販売、店の経営は獲ることより大変。人件費、流通コストを考えると儲かっているとは言えないが、この取り組みを通じて消費者が沿岸魚に興味を持っていることは感じる。」
岡野
「産地市場で魚を購入する際、漁業者の収入も考えて購入しているか。」
中村氏
中村
「ほとんどの小売業は考えていない。自社ではローカルスーパーが生き残る方法は産地市場で鮮度が良く季節感がある魚を魅力にして売るしかないと考えている。高鮮度で良い物は規格外でも購入し販売している。」
斉藤
「マニュアル化された店の方針が一番邪魔。経営が上手くいっている店は、規格等の縛りにとらわれず、サイズが不揃いでも高鮮度のものであれば購入し販売している。このやり方は漁業者のためにもなると考える。」
岡野
「地方行政(水産部局)は生産者側に立って事業に取り組むことが多いと考えるが、消費者のニーズをどのように把握しているか。」
後藤
「消費者ニーズの把握は難しいと日々感じている。県の立場では漁業者側に向くことが多い。岩手県は水揚げした魚をWEBで公開し、情報を消費者に伝えているが、逆方向の情報入手はできていない。」
会場から
「最大のビジネス・パートナーは財布を握っている女性ではないかと思う。女性の力を活用する必要があると思う。
また、女性の意見も反映させるため、パネリストに女性を加えた方が良い。」
斉藤
「自社でも女性が最大の顧客との認識であり、女性視点での商品化を行っているところである。」
岡野
「次回開催する時にはパネリストの構成についても考えたい。テーマ1について佐野先生にまとめていただきたい。」
佐野
「小売業は、小ロットによるコスト高の部分を利益に繋げられなく、また消費者のニーズに対応できていない。そもそも消費者側と量販店側のニーズがマッチしていない感がある。卸が集荷に励み、それを小売が品揃え豊富な売り場を提供する。そのことで消費者のニーズが曖昧なものから確固たるものになっていくと考える。」
テーマ2 「沿岸魚の販売拡大に向けた取り組み」
岡野
「次のテーマでは、皆様の取り組みとして沿岸魚の販売拡大やその効果、課題について聞きたい。」
泉澤氏
泉澤
「六次産業化の取り組みを自社で行っているが、販売拡大にまでは繋がっていない。良い物と認識されつつもなかなか価格に結びつかない。六次産業化は漁業者の時間、手間を犠牲にして成り立っている。」
山口
「鹿児島では市場、仲買、小売が協力して魚食普及活動を行っている。魚食普及活動で、消費者に魚を食べてもらい、小売は消費者の声を聞くことが出来る。また、消費者からの声が仲買、市場にも届くといった相乗効果も見られている。」
中村
「弊害はマニュアル化すること。小売は美味しい物を食卓に届けるという信念がなければならない。
マニュアルに縛られた受注発注ではなく、お客様に喜んでもらうことを考えるべき。」
斉藤氏
斉藤
「自社では、その日水揚げされるものを優先的に売るようにしている。一般的には消費地市場で仕入れるのが主流だが、自社では産地市場からも仕入れている。流通の多様化が必要。」
後藤
「漁村の人は、魚は貰うものという感覚がある。これまでは良かったかもしれないが地方流通を考えた場合、今後は改善が必要。」
会場から
「これまでの議論で若い人に魚を購入してもらうことが今後の問題として重要と考えるが、そのための策があれば教えてほしい。」
佐野
「若い人は魚を食べる機会が少ない。日常的に魚を食べる機会を社会が作っていないことが問題。水産物に限らず食への意識が低い。小売り現場の責務は大きい。」
岡野
「引き続きテーマ2についても佐野先生にまとめていただきたい。」
佐野
「販売拡大のためには美味しい物、鮮度が良い物を安く消費者に提供することが重要。そのためには小売側に大変な労働を強いることになる。労働分配率を考え社員のモチベーションを下げないことが重要。」
テーマ3 「生産サイドと流通サイドの連携のあり方」
岡野
「生産サイドと流通サイドはどのように連携すべきか、皆様のお考えを聞かせていただきたい。」
後藤氏
後藤
「地産地消の取り組みのひとつに産直がある。漁業者が出荷まで取り組む例もあるが、
長続きしない。その役割を小売店が出来れば良い連携になると思う。」
山口
「六次産業化の取り組みを行うのは厳しい。鹿児島市場の良いところは漁獲した低利用魚を含め全て水揚しているところ。仲買人のニーズに応え低利用魚の水揚げを進めることで高く売れるようになった。地域によっては低利用魚の活用を推進できる。」
会場から
「私の地元では生産者、流通販売、消費者との間でミスマッチがある。たとえば、漁業者は漁協が決めた規格で箱詰め出荷するが、仲買人が購入後又箱詰めし直す。それぞれ不満に思っても話をしないので進歩がない。鹿児島ではこの様な問題を解決する場があるか。」
山口氏
山口
「鹿児島市場の荷受は漁業者とコミュニケーションをとっている。良い魚を提供してもらうため、箱詰めの仕方など漁業者に注文も出している。また、値段が安いときは漁業者にその理由も説明するよう心がけている。」
会場から
「消費者のニーズに応えようと漁業者は現場で奮闘している。そのため、過剰労働となることがよくある。」
会場から
「もう少し、消費者の立場からの視点と課題を考えた方が良い。」
会場から
「魚がよく売れているローカルスーパーを知っているが、担当者が魚を好きで良い物を売ろうという熱意がある。」
岡野
「会場からこのような意見があるが、バイヤーを育てるために大事なことは何か。」
斉藤
「一番大事なことは権限を与えることだと思う。」
岡野
「最後のテーマについて、佐野先生にまとめていただきたい。」
佐野
「現在の6段階流通のどこを改革するかはケースバイケースであり、自由な考えで取り組むべき。スーパーの地域性、資源の動向等は地域によって様々。魚は工業製品ではないので販売方法をマニュアル化すべきではなく、柔軟に対応すべきだ。最終的には職人的な技能を持った人作りが重要となる。」
第三部 統括 堀川博史(開発調査センター)
これまでの水産研究は、漁獲物をいかに単価向上させるかという分野について積極的には行われていなかった。そこで第3回研究大会より漁獲物の単価を向上させるためには何が必要になるか、パネリスト、参加者とともに議論してきた。本日の討論では、生産者とスーパーが連携して地方漁港で水揚げした魚を地方のスーパーで販売して行こうという内容で議論できたと思う。しかしながら、都市圏の最終顧客には沿岸魚をどう届けるかという課題が、まだ議論されていないと考える。