牧野 光琢 副会長 (水産総合研究センター中央水産研究所)
本シンポジウムにご参加いただいた皆様,講演者,パネリスト,すべての皆さまに感謝する。
当研究会は平成23年に発足し活動してきたが,正直なところ未だビジネスモデルの構築には至っていない。
難しさを感じた3年間だった。
漁業者が加工,流通,販売を全て行うことは困難であるが,その仕組みについて漁業者が理解した上で,陸上の過程は組合,仲買人など専門の方に任せることが現実的であると思う。
陸の上と海の上での取り組みが融合することでビジネスモデルが作られると考えているところである。
本日のテーマは水産界の最重要課題と考えおり,活発な議論が行われることを期待する。
以後,進行はコンビ‐ナーの柳田 洋一幹事(茨城県水産試験場)が務めた。
コンビ‐ナー 道根 淳 幹事(島根県水産技術センター)

沿岸域における漁船漁業ビジネスモデル研究会は,沿岸漁業の経営の安定,利益の増大を目指した新たなビジネスモデルの構築と定着を目的に平成23年に設立した。
最初の取り組みは,大分の臼杵地区で行われているタチウオ曳き縄釣り漁業を対象にビジネスモデルの構築事業を行っている。
ここでは,これまでに成果として新たな漁法の提案,漁労機器の開発などが達成された。また,これらの活動とは別に当研究会では年1回の研究大会を開催している。
今日は,その3回目の研究大会である。第1部は流通,消費者サイドから増田氏,長島氏より食の現場のニーズ,取り組み,課題についてご講演いただくこととしている。
第2部は生産現場で活躍されている河原氏,今橋氏,塚田氏,笹川氏より現在取り組んでいる事例について紹介いただくこととしている。
講演,パネルディスカッションの話の中で,魚の価値は漁業者,仲買人あるいは消費者の誰が判断するのかをキーワードに本シンポジウムは進めていきたい。
第一部:講演
後藤 友明 幹事(岩手県水産技術センター)の司会進行により,2名が講演した。
増田 裕 氏(三英食品株式会社 加工原料部)s

水産業にとって六次産業を実現し,それを継続していくには,一次産業,二次産業,三次産業の連携が重要だが,忘れてはならないのが消費者視点である。
消費者がその時に欲するモノ,コトをどう提案できるかが今後のビジネスの課題となる。
消費者が欲する「魚」とは何かを,一次産業,二次産業,三次産業の視点,且つ「虫の目(三現主義)」「鳥の目(俯瞰的)」「魚の目(潮流を見据えて)」をもって考えなければならない。
魚の家庭内での調理いわゆる(内食)は年々減り続けているが,外食は横ばい,中食(調理済み食品を買って家庭で食べる)は上昇傾向にある。「美味しい(愛でる)」と「旨い(味)」を日常的に使い分けしている日本人(消費者)に対してもっと掘り下げていけば,ビジネスチャンスは大いにあると考える。
価格決定権を得るためには,生産相当数以上の販売先を確保しておくことが必要で,そのためには,顧客情報を把握している二次,三次産業との連携も不可欠である。
流通過程において,高く売りたい一次産業と安く買いたい二次産業が連携するためには,新たな商品の開発や新たな売り場での販売が重要なポイントとなる。
「興津漁協四万十マヒマヒ丸企業組合」と「株式会社けんかま」の連携では,発想の転換から生まれた商品を新たな売り場で売ることにより,これまで低価格で取引されていたシイラが有効利用され,高知発の商品が東京で売られるまでになった。
コンビニでの近年の新たな製品「青魚ほぐし弁当」は,若者を中心に人気を得ており,使用される原魚量は相当な量が見込まれる。また,スーパーや居酒屋では,サンマの竜田揚げなど,浜では安価な製品が工夫によってかなりの値段で販売されている。「温故知新」もさることながら今必要なのは「温故
創新」と考える。

岡野:けんかまちくわの1日の販売量はどのくらいか
増田:定価128円,特売で99円,1日1店舗70〜80本。総菜としてはかなりのヒット商品。
後藤:原料はシイラとのことだが,シイラを獲ってくる漁業者の所得向上など,何か影響を与えたか。
参加者((株)けんかま):取り組み後,シイラの単価が上昇した。正直なところ,我々は安く
仕入れたいのが本音。しかし,それでも漁師を守るということでやらせてもらっている。
参加者:大ヒット商品が出た裏側の話が聞きたい。
増田:実際の製造は,けんかまさんがやっている。想像での話だが,かなりの試作を行って、
何度も失敗の上現在の成功があると考える。
参加者:すぐに他社にマネされる心配はないのか。
増田:リスクヘッジは当然考えている。同様の製品を作れる企業や工場の数まで調査済み。
特許をとるべきかも考え,いまの運びとなった。
長島 秀和 氏(協同組合関東給食会 理事)

学校給食の食材導入において,基本となる4つの「安」がある。それは安心・安全・安定・安価である。
このうち安心・安全は不可欠だが,安定・安価に関してはしかるべき理由があればコントロールすることは可能である。
不安定なものを販売する際は使用目的を正確に把握し代替え品を提案することで,また,高価なものを販売する際は食材としてだけでなく「教材」としての価値を理解してもらう事で導入は可能になる。
「教材としての魚」を売り込む機会として最も有効な方法は「出前授業」で,例えば小学校5年「日本の水産業」学習時期に実施すると他県産,地場産にかかわらず効果的。加えて地場産水産物導入は小学4年道徳「ふるさと意識」や全国学校給食週間等の機会,学校給食法における地産地消推進も後押しして導入理由が得られやすい。
また産地と消費地が同じ場合は,行政の動きとリンクしやすく,消費者の理解も得やすくなる。
実際,各教科と給食に関連を持たすことができれば相乗効果が期待できる。
「生産」と「消費」をマッチングするには,「流通」と産地と給食現場に精通した「仲介役(コーディネーター)」がいないと商流として成立は困難である。更に,生産・流通・消費・仲介役すべてが一致した目的を持ち,それぞれの役割を果たしていかないと継続した事業にはならない。
まさに「人と人とのつながり」が大切で,価値を理解して高値でも使用してもらうためには,努力や工夫だけでなく,経験や学習,それにともなう年月も必要となる。
しかしながら「知って(実感して)食べる」アプローチや農産物と連携した動きは,外国産では実現しにくい切り口であると同時に,対象者が未来の消費者であるという点で大いに意義深いことだと考えている。
参加者:肉と魚の割合は,近年どのように推移しているか。また,4つの安の話がでたが,金目鯛キロ
5000円は決して安価ではない。児童が知った時,どのような反応をしていたか。
長島:給食は,組み合わせ,バランスがいいように考えて作られている。肉と魚の割合は,特に
変わっていない。ひいき目に見て,若干魚の割合が増えてきたか。給食コストは1日いく
らでは無く,一定期間の平均コストが重要なので,1ヶ月の献立の計画の中で,栄養士の
やりくりによって平均よりも安くすませられる日が何回かあれば,高い単価の魚も使う
ことができる。
参加者:学校給食は,ラウンドで仕入れないという原則がある。捌き,加工するところが必要だが,
学校給食の分をまかないきれているのか。
長島:ラウンドで仕入れて,加工業者に捌かせているのが現状。また,産地の漁協の女性部に
捌いてもらうパターンもある。出来るだけ地場が活性化するように考えている。
後藤:東京にはたくさん学校があるが,この出前授業の取り組みを実施している学校の数は
どのくらいか。
長島:最初は,手を挙げる学校(栄養士)は少なかった。周りの様子を見るため,広まるには,
2年3年と時間がかかる。法律,行政の後押しもあって,今では50%近くの学校が
取り組んでいる。

一般社団法人海洋水産システム協会岡野利之氏がコーディネーターを務めた。
パネリストの紹介に続いて,各パネリストより日頃の取組について発表がなされた。
河原 宜人 氏(すくも湾漁業協同組合 参事)

近隣の16漁協が合併し,すくも湾漁業協同組合が設立された。宿毛市の職員から,これからは安心安全の時代とアドバイスをうけ,高度衛生管理の新市場の開設にこぎ着けた。
建設費用の分担は,国50高知県15大月町12.5宿毛市12.5漁協10%で建設した。仲買人制度をオープンにし,さらには漁協も入札できるように改革した。魅力のある市場にしないと,誰も生き残れないという考え方が仲買人にも伝わった。地産地消,学校給食の取り組みも行っている。
漁協では販売部門の他に加工部門も頑張っている。
加工部門にとっては,販売部門が頑張って魚価が高くなるのは頭の痛いところだが,組合員のためなのでやむを得ない。
店舗直送で広げる新鮮地魚消費-会瀬の定置網を事例に-
今橋 一也 氏(茨城県指導漁業士)

私が会瀬漁協の組合長を務めていた平成17年に知り合いから「マルト」という量販店に魚を直接卸すことはできないかという打診があり,それがきっかけとなり,平成18年から正式に契約を交わし,組合の直販事業としてスタートした。
当初は,どの魚をどのくらい持っていけば良いのかわからず苦労したが,現在は,朝獲れの魚をその日に提供できる(day-0)ということで,他の産地の魚と差別化ができ,ロスも少ないということから,高い魚価にもかかわらず,順調に出荷量も増え,良い信頼関係を築けた。また,「会瀬の魚」が評判となり,今では客層も一般客の他に市内の飲食店も仕入れに訪れるなど,多様化した。
「マルト」では販売方法にも工夫を重ね,売り上げは順調に推移したが,漁業者側から見て最も頼もしく思うのは「一尾丸ごとの魚」を売るという店側の姿勢である。
出荷する魚種はアジ,サバなどの大衆魚から,ヒラメ,スズキ,サワラ,イセエビ,アワビなどの高級魚まで出荷した。また,組合員が漁獲したワカメ,ヒジキ,マツモなどの会瀬の磯で採取した海藻も販売した。直接出荷の金額は,年々高くなりピーク時には漁協全体の水揚高に2割を占めるようになった。
販売に関する課題は,県内の漁協が共通で抱える課題であり,私の漁協の直販事業のノウハウが他の組合にも反映され,今後県内のスーパーマーケット各店で「地魚」が販売されることを期待している。
塚田 克郎 氏(新潟県指導漁業士)

私は,新潟県の西端に位置する糸魚川市(旧能生町)にある上越漁協筒石支所に所属し,小型底びき網漁業を営んでいる。漁獲対象は,浅海のヒラメから深海のズワイガニまで多岐にわたるが,とくにニギス(めぎす)を中心とした操業を行っている。
旧能生町には上越漁協能生支所と筒石支所があり,両支所の底びき網で水揚げされた魚は,漁協統合以前より同時に競りにかけられてきた。能生の全船が冷海水装置を持つことや,漁場が近いことから,能生の魚は筒石よりも高鮮度であるとして高値で取引されてきた。これを知った私は,能生の漁船を上回る能力を持つ冷海水装置を設置するとともに,魚の傷みを軽減するよう漁獲方法にも気を配った。特に,ニギスやヤリイカの鮮度では,能生を上回ると自負していた。しかし,市場では,単に筒石の魚として冷却装置の無い船と同じ価格で取引され,鮮度の評価は全くされなかった。この状況を憂えていたところ,私の魚の良さに気付いてくれる人が現れた。それが当時,上越水産株式会社におられた笹川周さんであった。笹川さんは私に対し,ニギスの鮮度を考慮した単価での直接取引を持ちかけてきた。そこで,これを漁協の販売会議に諮ったところ,不公平であるとして却下されてしまった。
これを受け上越水産は,「鮮度保持に関する条件(水揚げ時の魚体温度5℃以下)をクリアしたニギスは全て買い受け対象とする」という内容を提示し,販売会議に再度諮問してなんとか了承を取り付けた。
現在に至るまで,能生支所を含めてこの条件をクリアできているのは私だけである。
漁師がいくら高鮮度製品を出荷しても,それを正当に評価する人が現れ,価格に反映されなければ何にもならない。
同じ価格で取引されるなら,冷海水装置など使わず,氷の使用も少なくする方が経費はかからないが,それで本当に良いのか。漁師の取り組みに対する正当な評価と単価への反映こそが,消費者に新鮮で安全な魚を提供することに繋がるとともに,我が国の漁業の存続に必要なことであると考える。
笹川 周 氏(新潟冷蔵株式会社 取締役)

水産物の小売で圧倒的シェアを持つ量販店の水産部門が赤字である。その量販店に依存している卸売市場も赤字。
これらは最終的に生産者の魚価に転嫁されると考える。
つまり,水産物では誰も利益が残らない奇妙な流通構造となっている。この流通構造の負のスパイラルを断ち切り,みんなが少しでも利益が残り,事業として継続できる新しい流通が必要と考えていた。こんな思いの中,新潟冷蔵から上越市にある上越水産へ出向することになり,塚田さんと出会い,生産者と流通が連携することが一番有効と思い立ち,如何に「高く売るか」という,生産者(漁協)の販売代行をやろうと思い立った。
また,生産現場により近づくと,次々と色々なことが見えてきた。
生産者が捨てている魚が沢山あった。また,新潟県には鮮魚原料を加工する業者がほとんどなく,加工原料を安定供給する為の原料凍結庫もない。一方,上越水産には遊休化した工場と冷蔵庫(F級)があり,親会社の新潟冷蔵は水産加工品の潜在的需要と販路を持っていた。このバラバラでつながりがない要素をつなげれば事業化できるのではないかと考え,水産庁のビジネス連携事業に応募し,加工には絶対不可欠な原料の凍結庫と加工機器及び加工場の整備をした。その上で,上越の鮮度の良いニギスを利用したオリジナリティーの高い商品づくりを目指し,主にニギス開き加工に取り組んだ。また,原料の安定確保のため水温の一番高い時期である小型底びき網漁業の解禁日(9月1日)のニギス原料が水揚げ時5度℃以下に供給できる漁船だけ,年間,全量,定価で買い付けするとの条件を漁協に出した。
その条件に唯一合致したのが塚田さんの昇栄丸の漁獲物であった。加工を始めた当初,製品は全く売れなかった。
そこで,地元の小売,飲食,学校給食を通じてニギス製品の宣伝,販促活動をした結果,地元から応援してくれる人達が出てきた。更に,地元の人達が独自にニギスの魚醤油を作り,これを使ったメギス(ニギス)ラーメンやメギス(ニギス)バーガーを販売し始めた。上越市は地元水産物を産業振興,観光振興の資源として認め,予算を付けてくれるようになった。
地元業界,行政,マスコミが一体となり活動したことが魚を通じた「地域おこし」のきっかけとなった。
岡野:これからパネルディスカッションを行うが,まずはパネリストの方々が流通段階のどこに位置するのか冒頭に確認したい。塚田氏は生産者の立場,笹川氏は消費地に近い立場,今橋氏,河原氏は産地市場の立場,増田氏は加工関係の立ち位置,長島氏は消費にも加工にも近い,幅広い立ち位置(仲介役)である方々である。
岡野:第2部より参加されているパネリストの4名の共通点はどちらかと言うと生産者であり,川上の方々である。講演者の2名は消費者に近い加工の立場,川下である。まずは,そのご両名から川上の4名に対して,どのような意見を持つかご意見いただきたい。
増田:何か新しいことをやると言っていた河原氏に,どんなことをやるのか聞いてみたい。
河原:時代が移り変わるなかで,現状維持と言って何もやらなかったら,現状維持にはならない。何か常に新しいことをして,やっと現状維持になる。間違っても,失敗してもいいから,どんどんやるべきと当漁協は考えている。
増田:スーパーマルトの取り組みの話で,何故うまくいったのか,今橋氏はどう考えているかそのあたりを聞かせて欲しい。
今橋:毎日,夕方に自分の漁獲物を販売しているスーパーに出向き,どれくらい売れているか,値段はいくらかをチェックした。その行動が評価されスーパー側から信頼を得たと考えている。売り方についても,お年寄り向け,料理店向けなど,店側にアドバイスした。
増田:新潟の方ではメギスは冷凍で流通されているのか。
笹川:ほとんどが,鮮魚で流通している。
塚田:ニギスという魚は鮮度低下が早い,船上ですばやく冷却しなければ売り物にならない。
長島:どうして自分が獲ったものの値段を自分で決められないのか疑問に思う。ここにいる皆さんは,ちゃんと自分で値段を決めているように思うが,そのために,他のものと差別化しているものを作っているので,流石と思った。また,人とのつながりが大事であるとも再確認できた。
長島:塚田氏に聞きたい。これだけ,ニギスが売れるようになっているのを他の人も見ていると思うが,どうして他の人はマネしないのか。
塚田:それは漁師のプライドが邪魔していると思う。誰よりも早く,いい漁場に行き,たくさん漁をする漁師がよい漁師だという昔ながらの考え方から脱却できないでいるようだ。
笹川:消費市場が一番衰退している。価格決定機能が無い。市場に価格決定機能を復活させることが,魚価を向上させるには重要である。
河原:すくも湾漁協は平等よりも公平で動いている。機会均等の中で,創意工夫により頑張ろうという者がいれば,その者を応援したい。どちらかというとすくも湾漁協は株式会社に近づいている。塚田さんのような取り組みは,うちの漁協であれば無条件で応援したい。
長島:農産物ではJAを通さないで直接消費者に販売するということがよく行われている。水産物についても,これからは,JFを通さず,直接販売していくケースが増えてくると考えるか。
河原:漁師の方が自分で売るのではなく,漁協に売ってもらったほうがいいと認めてもらえるような魅力のある漁協にならないといけないと考える。ひとりで何か行動するよりも,漁協のネームバリューを利用していただきたい。
岡野:それでは,今度は,逆に,産地側から消費者に近い方へのご意見を伺います。
塚田:うちが漁獲したニギスは,一番大きいサイズはここへ流通している,このサイズはここへ,と売り先が見えている。そのように卸したところから,美味しかった,こうした方がいいなどの声聞くことができている。みなさんのところもそのような声が返ってきているか。
長島:川上から川下へ流れてきた水産物を,情報としてもう一遍川上に情報を流すのが,私の仕事だと考えている。また,消費者が産地の現場に行ってみたい,と思うような商品を川上から流してもらえると,さらにありがたいと考える。
参加者:私は塚田さんと同じで船を持って漁師をしているが,今から,自分で生産したものを加工までやろうと考えているが,何が必要かアドバイスいただきたい。
塚田:国が進める六次産業のシステムがある。でも,漁師が全てやるのは無理だと思う。海で魚を獲ってきて,陸でマネージメントまでするのは難しい。幸運にも私は,笹川氏と出会えた。よきパートナーを見つけることが継続した事業を進める上で重要と考える。
笹川:連携することが重要。生産者に加工,流通までさせることは私も非効率と考える。
参加者:まわりの漁業者も一緒にやろうということを塚田氏は考えないのか。
塚田:決して一人勝ちしようとは考えていない。何故まねをしないのか不思議。おそらく,周りの漁業者は,私よりも年輩の方達で昔ながらの漁師であるため,マネすることはプライドが許さないのだろう。
岡野:私からも補足させていただくと,この場に塚田さんが来ているということは,自分のノウハウを皆に教えてもいいという心構えがあるはずだ。
参加者:河原氏,今橋氏に聞きたい。仲買人をオープンにしたと言っていたが,どのようにそういう方向にいったのか決定打は何だったのか。
河原:仲買人は既得権が失われる可能性があり,反対の声が大きかった。流れ作業で魚を右から左に流している業者も存在する。ストライキをしようという話もでた。けれど,漁協はそれに対し,ひるまなかった。逆に,仲買業者に対し,入札を停止しますよという態度を見せた。実績としては,魚の流通量を今まで以上に増やしたことから,仲買人から信頼を得た。若い仲買人もしっかり育てないといけないと感じている。販売先の拡大などもともに行ってきた。今では友好な関係を築いている。
今橋:私のところは4者の仲買人が大半を買い上げていたが,跡継ぎが皆いなかったことで危機感があった。そこで,漁協の出荷が始まった。買参権を広める際には新規者と差をつけた。新規者は,積み立て保証金を低く設定し1日に買える量を制限,相対の時は既存仲買業者は入札最高値の2割増しとしているが,新規者は3割増しで買うというルールにした。地元の魚が地元に流通しないことが市民より指摘があり,月に1回,朝市を開催するようになった。消費者と仲買人,消費者と漁師のコミュニケーションの場となった。
参加者:小田原魚市では,東京の大田市場に朝どれの魚を流すような仕組みを作った。市場の立場として,まだまだ効率良く出来るものがあるはずとの考えで行った。学校給食もやりたいが,長島氏のようなコーディネーターがいなく,なかなか出来ていない。
長島:納入業者は,昔からのしがらみがある。栄養士さんと一緒に,仲介役を通じて同じテーブルで議論したらいい。
参加者:生産量10なら販売先30確保せよとのことだが,どうしたら30探せるのか。
増田:それぞれの専門がやるべきと考えている。1次産業の方が売り先を探すことは難しい。販売顧客情報を豊富に持つ2次,3次産業との連携によって,販売先の拡大が可能と考える。
参加者:高知もニギスとれるが,骨があたるというクレームがある。どうしたら良いか。
長島:ニギスは,骨ごと食べられるというニーズにあった魚と認識している。
塚田:ニギスは石川でも良く獲れている。同じ日本海でも,石川産のニギスは皆骨が硬いと言う。産地の違いで骨の状態は変わると思う。
増田:高知のニギス(オキウルメ)は骨が硬い。のどにあたる。第二のメヒカリになると思い,何度も挑戦したが,力不足だった。
岡野:昨年のパネリストの中島水産さんが,今日お越しだが,何かコメントあるか。
参加者:鮮度保持に対する意識が昔は低かったが,最近はかなり高まってきたと感じている。今後も生産者と連携していきたい。話は変わるが,すくもの方ではマグロの養殖も盛んであると思うが近年はどうか。
河原:マグロの養殖は,4社が行っている。ヨコワの漁獲が減ってきている。人工種苗の生産が急務であると考える。
参加者:海洋大学生に魚をおろしたことがあるか訪ねると,1割しかいないのが現状。今後の見通しをどのように考えているか。
岡野:パネリストの皆様には最後に一言ずついただく予定,その際にお願いしたい。
参加者:輸入魚が多く占める中,地場の魚を普及させることが,学校の教育の現場で進めることができるという話があったが,一般の方に広めるにはどうしたらいいか。
長島:親の世代に普及させることは難しい。子供は,価格にこだわらずすぐに入り込めるのでわりとスムースに普及させることができる。大人に対しても,例えばタイのタイなどアトラクションのような体験を通じて楽しさ,良さを知ってもらい,身近に感じさせる売り方が重要と考える。
岡野:最後に一言。
増田:40代50代が魚を食べなくなっている。社会環境,住居環境などが原因である。魚は美味しくて安くてヘルシーと売り込むべき。
長島:消費者に関心を持たせないと魚食は進まない。
河原:水揚げ金額を減らさないかが重要。海外を視野に入れることも重要。
今橋:子供を育てている親にいかに関心を持たせるか。普及員の力がなければ,今の私はない。この場を借りてお礼を言いたい。
塚田:今まで叩き込まれたものを覆すことは難しい。時間をかけて取り組むことが重要。漁業を衰退させないことが重要。
笹川:食は文化の問題である。長い時間をかけてこのようになった。地道に努力していくしかないと考える。
岡野 利之コーディネーター(一般社団法人海洋水産システム協会)

今日の議論で,皆様の意見の共通点は何があるのかと考えた。
?信頼のおけるパートナーがいる。
?それによって点の力や活動が繋がって線になっている。
?失敗もあれば成功もある。苦労を乗り越える。その経験を活かす。
?自分の売り先をきちんと(顧客ニーズ)把握している。ということであった。
また,1次産業に従事する者も消費者を意識するべき。魚を主体と考えるのではなく,食事の一要素として考える。
価値のないものに創意工夫して価値を創出すること。流通と連携してWIN-WINの関係を構築するということも大事である。
武井 篤 水産総合研究センター理事(開発調査担当)
本日,有意義な話を聞かせていただいたパネリストの皆様,全国よりお集まりいただいたフロアーの皆様の活発な議論に感謝する。消費者ニーズ,社会情勢が変わっていく中,漁業者,流通関係者が今までどおりの関係では新しい世の中に対応できないと感じた。
今日の議論をきっかけに,我々も今後の活動の参考にしていきたいと思う。