調 査 船:開発丸(489トン)
調査期間:平成28年5月~平成29年3月
調査海域:太平洋中・東部海域

本調査の目的
  遠洋まぐろはえなわ漁業に関わる社会・経済環境及び漁業資源の状況の変化に柔軟に対応して収益性の確保及び経営安定を図ることを目的とし,漁場探索技術の高度化及び冷凍機運用方法の改善等による省エネ化,並びに船上品質評価技術,低未利用魚の付加価値向上に関する調査を行う。

本年度調査の主な成果等

表1 圧縮機のエネルギ-効率改善結果
(1) 冷凍機運用方法の改善等による省エネ化に関しては,現在装備されている3台の圧縮機のうち,2台にインバーター制御(圧縮機の回転数制御)とアンロード制御(圧縮機の気筒数制御)を自動で行えるようにして,従来のインバーター制御なし運用との消費省エネ率を比較した。また,これらの装置をタッチパネルによる操作を可能にすることで,冷凍機操作の簡略化を図った。調査は,積算漁獲量の差が少ない(4%)5月27日~10月9日までの136日間を抽出して実施した。(表1)
  その結果,インバーター制御を行った圧縮機の燃料消費量省エネ率は10.2%となり,制御システムを導入することによって,複雑な操作を要すること無く,省エネルギー効果を得られることが示唆された。このことから,乗組員の経験,熟練度に左右されず,冷凍機運転の最適化に繋がることが期待された。
(2)船上品質評価技術に関しては、船上で脂肪含量を測定することができる装置の開発,及び市場で販売する際に,船上で測定した脂肪含量を開示して販売する取り組みを継続している。 新規開発した装置は継続的な船上使用試験でも内部及び外装の良好な状態が保たれ,浸水跡や腐食などの不具合は認められなかった。(図1)データ計測でも,良好な近赤外分光データが得られるとともに,同データに基づき既存装置と遜色ない脂肪含量測定が可能であることを示す結果を得られつつある。(図2)
(3)低未利用魚の付加価値向上に関する調査では,過去5年の操業調査において,比較的釣獲尾数が多かったシマガツオ類,クロタチカマス,カラスエイ及びミズウオを対象とし,タンパク質,脂質,水分等の一般成分を分析した。
その結果,西経漁場においては,シマガツオ類及びクロタチカマスは,かつお・まぐろ類に比べて,脂質含量が著しく低く,EPA,DHA等の機能性脂質による付加価値を期待することは出来ないことが判明した。一方,クロタチカマスとシマガツオ類には抗疲労性機能を有するアンセリンを比較的多量に含んでおり,タンパク質含量は一般的食用魚と遜色なく,十分食用に適することが明らかとなった。利用促進に関しては,シマガツオ類とクロタチカマスが仲買業者や飲食店から高い評価を受け,早期の販路拡大が期待される。
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2 平成28年度海洋水産資源開発事業(海外まき網)の調査概要
調 査 船: 第一大慶丸(399トン)
調査期間:平成28年9月~平成29年 5月
調査海域:熱帯インド洋東部公海域

本調査の目的
   海外まき網漁業において,資源への低負荷と操業の効率化を両立し得る持続的生産システムを構築するため,若齢まぐろ類の混獲削減,FADs(Fish Aggregating Devices)による集魚及び漁場探索等の漁業技術の改善を図る。

本年度調査の主な成果等
   かつお・まぐろ類を対象とするまき網漁業では,大目網の使用が小型魚混獲回避にどれだけ寄与するかは十分明らかになっていない。そこで,本年度は,第一大慶丸と同時期にインド洋漁場に出漁した第八十八光洋丸の協力を得て,同一魚場で二隻の船により漁獲比較試験を行った。第八十八光洋丸は大目網(目合300mm主体)を,第一大慶丸は小目網(目合240mm主体)をそれぞれ使用した。比較に用いた操業は,大目網では計10操業,小目網では計9操業であった。それぞれの操業時にランダムにサンプリングしたカツオ・キハダ・メバチの体長測定を行った。使用目合別の魚種別体長組成を図1に示す。いずれの魚種においても,小目網における小型魚漁獲が,大目網に比べて高い傾向が認められた。このことから,大目網の使用が小型魚の混獲削減につながる可能性が示唆された。
 まき網に対する魚群の行動を把握し,操業技術やまき網漁具の改善に資することを目的として,網中におけるまぐろ類の行動計測を行った。ジギングにより釣り上げたメバチにマイクロデータロガーを装着放流し遊泳軌跡を推定した。推定した遊泳軌跡とFADを曳航した2号艇の軌跡を比較したものを図2に示す。また,水中灯ON,投網開始,環まき開始,揚網開始,日の出の時刻をプロットした。2号艇が水中灯を点灯開始する直前からメバチの遊泳深度は上昇し,2号艇までの水平距離も短くなっている。このことから,メバチはFADを曳行している2号艇に向かって上昇した可能性が考察される。現在もさらに多角度から分析を進めている。



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3 平成28年度海洋水産資源開発事業(遠洋かつお釣)の調査概要
調 査 船: 第三十一日光丸(499トン)
調査期間:平成28年9月~平成29年3月
調査海域:太平洋中・西部海域

本調査の目的
  遠洋かつお釣漁業における効率的な資源利用のため,9月~10月頃は日本東方沖合海域,11月頃~3月は南方海域において,漁場探索能力の向上,省エネ・省コストを企図したシステムの改良及びカタクチイワシの利用技術の高度化等を行い,当該漁業の経営の安定と持続的な発展に資する。

本年度調査の主な成果等
   操業効率の向上に関しては,新規自動釣機導入の可能性を検討した。これまでの既存自動釣機(油圧駆動)の問題点を改善するために,電動駆動式の自動釣機を開発し,船上で釣獲性能の評価を行った。当該機の挙動を調整し,開発過程で意図した動作を設定することにより,操業30回でカツオ等(最大8.5kg)26尾を釣獲することができた。今後,さらなる性能向上のための改良を加える。また,一定の成果が得られたことから,現在,当該機に関する特許を出願中である。
  活餌カタクチイワシ飼育技術の高度化に関しては,船上での活餌飼育における省エネを図るために,閉鎖循環飼育システム技術の導入を瀬戸内海区水産研究所とともに検討した。調査船の曝気倉に生物ろ過装置を導入して飼育試験を行い,活餌の生残に影響を及ぼすことなく,10日以上無換水で飼育を行うことができた。また,水質の指標であるアンモニア濃度についても,有害な濃度に達していないことを確認した(図1)。飼育期間中の省エネ効果については,排熱ポンプ及び海水冷却用の冷凍機の停止により,約6kLの燃油を節減することができた(図2)。
 ウェザールーティングシステム導入による省エネに関しては,システムの改良により,日本近海域の詳細な気象データを考慮した最適航路計算を行うことが可能となった。一方で,改良システムが試算した船速と実測の船速が異なる等の課題が明らかとなった。情報整理を行い,原因を明らかにすることでウェザールーティングシステムの精度を向上させ省エネルギーにつなげていく必要がある。
    販売業務の効率化に関しては,画像処理技術を用いた魚種及び銘柄別漁獲重量の計数技術をNECソリューションイノベータ(株)とともに検討した。コンベア上を流れる漁獲物の動画解析を行うことで,漁獲尾数の計測が可能であることを確認した。一方で,照度等の撮影環境の変化から,漁獲重量を算出するための体長測定技術や魚種認識に課題が残った。今後は,撮影環境等の課題を改善し,良好な画像データによるソフトウェアの改善を行う。




4 平成28年度海洋水産資源開発事業(いか釣:日本周辺海域)の結果概要
調 査 船:第十八白嶺丸(183トン)
調査期間:平成28年6月~平成29年1月
調査海域:日本周辺海域
  ただし,外国200海里内,指定漁業の許可及び取締り等に関する省令第十七条別表第二で定められたいか釣り漁業の禁止海域を除く。

本調査の目的
   いか釣漁業では,漁灯として水銀灯の一種であるメタルハライド(以下,MHという)灯が広く利用されている。しかし,MH灯による燃油消費量はいか釣漁船の燃油消費量全体の約30~40%と大きな割合を占め,これが燃油価格の変動による経営の不安定化の要因となっている。また,我が国は2016年にパリ協定を批准し,2030年度までに温室効果ガス排出量を2013年比で26%削減する目標を掲げており,本漁業の燃油消費構造の転換が社会的な要請となることは想像に難くない。また,MH灯は水銀の国際取引や水銀を使用した製品の製造・輸出入などを2020年以降に規制する水銀に関する水俣条約の規制対象外となってはいるが,公共施設等で広く使用されている高圧水銀ランプなどの水銀灯は LED灯に置き換わりつつあることなどから,水銀を使用した灯具の製造は縮小傾向にあると思われる。さらに,MH灯はさんま棒受け網漁業でも広く使用されていたが,ここでもLED灯への移行が進んでいることなどから,今後もMH灯が漁灯として安定的に供給されるかは不透明な状況となっている。このような状況の下,省エネルギー型漁灯を用いた効率的操法を確立することにより,いか釣漁業の収益性改善に資することを目的とした。

本年度調査の主な成果等
  平成28年度の調査では,LED漁灯のみを艤装した調査船の放射照度を当業船(MH250kW)の放射照度に可能な限り近づけて(MH換算225kW相当),夜間に当業船(石川県小木,姫,青森県八戸A,八戸Fおよび山形の各船団所属船)と比較操業を行った。その結果,当業船平均のおよそ80%の漁獲成績を上げた。また,燃油消費量はLED灯の省エネ効果により,当業船平均の3割削減されることが確認され,LED漁灯のみでの操業でも採算を確保できることが示唆された。





5 平成28年度海洋水産資源開発事業(いか釣:北太平洋南西部海域)の調査概要

調 査 船: 第三十開洋丸 (349トン)
 第五十一日榮丸 (138トン)
調査期間:平成29年1月~3月
調査海域:北太平洋南西部海域

本調査の目的
  北太平洋南西部海域のトビイカを対象に,資源の持続的利用について検討するため,回遊をはじめとする基礎生態調査を中心として本種の分布域や分布密度,漁場特性等を把握する。

本年度調査の主な成果等
(1) 海洋環境と分布の関係の検討
   漁場の詳細な海洋環境情報を取得するとともにトビイカの漁場分布特性を把握するため,あらかじめ設定した定点において操業調査を実施するとともに,鉛直方向の水温・塩分及び基礎生産量等を観測した。
 この結果,本海域は海洋環境に基づき,北赤道海流北部海区(北緯17度以北)・北赤道海流域海区(北緯11-17度)・北赤道海流南部海区(北緯11度以南)の3海域に分類できることが分かった。平均漁獲尾数は北赤道海流南部海区が最も多かった。一方で,平均漁獲重量は北赤道海流北部海区が最も大きかったことから,北部海区において大型個体が比較的多く分布することが示唆された。 環境因子(表面水温,100 m深水温,200 m深水温,月齢,緯度,経度)と漁獲量の関係について統計モデルを用いて解析したところ,月齢及び表面水温で有意な相関関係が認められ,これらの要因が本種の漁獲に大きな影響を及ぼしている可能性が高いことが示唆された。
(2) 操業手法の検討
   漁獲されるトビイカは7-33 cmとサイズ組成に幅があることから,針サイズが大きいアカイカ用釣り針(針かさ12 mm)と針サイズが小さいスルメイカ用釣り針(針かさ8 mm)での漁獲の比較試験を実施した。その結果,平均漁獲尾数はスルメイカ用釣り針が多かった。一方で,平均体長は両者で統計的にもほとんど変わらなかったことから,より多く漁獲できるスルメイカ用釣り針が有利であることが示唆された。
 また,操業後半に集魚灯を減灯する手法を実施したところ,2時間で50 c/sを超える漁獲が認められた日もあり,有効な手法であることが確認された。
 一方,日没前の昼操業も16回実施したが,全く漁獲されなかった。
(3) 漁獲物の保存方法の検討
   トビイカの分布海域は熱帯・亜熱帯であり,操業海域の外気温が高いため,鮮度劣化の速度が速いことが想定され,スルメイカやアカイカより鮮度保持処理が重要になると考えられる。そのため,船上での鮮度保持方法及び高品質製品の生産手法を検討した。
 鮮度は供試個体計36個体の外套膜筋肉から過塩素酸(PCA)抽出エキス調製し,核酸関連物質(K値(%))によって評価した。なお,K値は低いほど鮮度が高いことを示す。その結果,外気暴露時間が長くなるほどK値は顕著に上昇し,釣獲後はできるだけ速やかに凍結庫に収容して冷却することが鮮度保持の上で重要と考えられた。
 また,筋肉タンパク質の劣化をSDS-PAGEによって評価したところ,K値による鮮度評価結果と同様に,釣獲後は速やかに冷却・凍結することが劣化の抑制にも重要であると考えられた。
(4)収益性の検討
   販売に当たっては,本種が低利用資源であり知名度が低いため,事前に希望する仲買業者等にサンプルを配布した上で,後日入札を行った。販売結果はトビイカラウンドブロック製品の平均単価は2310円/c/sであった。
 本調査の結果では,その単価,燃油コストおよび人件費コストから,今回調査した時期・海域において,漁業としての採算は合わないものと考えられた。操業コストに関しては,もはや削減の余地は殆どないことから,漁獲効率の向上,単価の向上を図ること以外に,本種の漁業の採算性を向上させることはできない。そのため,漁獲効率の向上に関しては,今後時期および海区を変えながら,さらなる調査を検討する必要がある。




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6 平成28年度海洋水産資源開発事業(いか釣:南西諸島周辺海域)の調査概要
調 査 船: 隆生丸( 9.7トン)
第三柳良丸(13.0トン)
調査期間:平成28年9月~平成28年10月
調査海域:南西諸島周辺海域
(東シナ海南方,久米島南方および沖縄本島南方)

本調査の目的
  南西諸島周辺海域で操業を行う小型漁船のまぐろ類以外の漁獲対象種として,ケンサキイカおよびトビイカを対象としたいか釣り漁業の可能性を検討した。

本年度調査の主な成果等
   小型漁船2隻を用いて,ケンサキイカおよびトビイカを対象としたいか釣り操業を,それぞれ東シナ海南方海域および久米島南方あるいは沖縄本島南方海域で実施した。調査は両魚種それぞれ3航海ずつ行い,2隻合計の水揚重量および金額(税抜)は,ケンサキイカがそれぞれ84.7 kgおよび55,071円,トビイカがそれぞれ545.7 kgおよび235,934円であった。
   ケンサキイカを対象とした場合の1隻当たりの3航海合計漁獲量は66.1 kgであった。調査期間後半になるほど1航海当たりの漁獲量は減少した。漁獲個体のサイズは,100~200 g程度の小型個体が中心であった。また,操業地点における水温および塩分濃度の鉛直構造を取得した結果,海洋環境の変動は少なく,漁獲量との明確な関係性を見られなかった。
   ケンサキイカの鮮度管理に関する知見として,核酸関連物質含量の推移(K値)を鮮度指標値とした品質評価を実施した。その結果,2昼夜までの保存期間において,使用する魚倉の状態や保存方法を工夫することによる鮮度保持効果が認められた(図1)。
   上場販売したケンサキイカの販売単価は400~1,100円/kg程度であり,水揚げ量を勘案すると採算を確保するには至らなかった。そのことから,製品の見た目の良さやサイズの統一感の見直しおよび船内凍結品などの新しい製品形態により単価向上を目指すとともに,盛漁期の6月~8月に操業して,漁獲量を向上させる必要がある。
   トビイカを対象とした操業を行った結果,1隻当たりの3航海合計漁獲量は316.7 kgであった。上場販売あるいは沖縄県外への試験販売を行った結果,販売単価は400~550円/kg程度であった。 また,得られたトビイカを対象として詳細な生物学的な測定を実施し,同海域における本種の基礎的な知見を得た。さらに,鮮度管理に関して,活締めおよび初期冷却の有無等の船上処理および魚倉での保存方法の違いによる各試験区のK値を比較した結果,保存期間が短いほどK値が低くなる傾向が見られたものの,船上処理の影響は見出せなかった。また,筋肉タンパク質の分解進行度を用いて品質評価した結果,各処理による顕著な差は見られなかった。



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7 平成28年度海洋水産資源開発事業(近海かつお釣)の調査概要
調 査 船: 第五萬漁丸(71トン)
調査期間:平成28年3月~平成29年3月
調査海域:九州周辺~三陸沖周辺海域

本調査の目的
 近海かつお一本釣漁業の主漁場である東沖において,当業船による短期操業効果を検証するとともに,漁場探索技術や漁獲物の鮮度技術の開発ならびに燃油使用量の把握を行い,効率的な操業による経営改善方法について検討する。

本年度調査の主な成果等
(1) 漁場探索技術の向上
図1 第47次航海にて海鳥位置情報を基に
北緯40度50分,東経145度25分付近にて
発見した鳥群(2016年9月15日5:52).
赤矢印:オオミズナギドリ


図2 当業船操業位置,海鳥位置情報および
  漁場予測(2016年9月24日).
  青丸:漁場予測範囲
①海鳥情報の検討
   操業試験は,47次航海(9月14日~18日)で実施した。出港前日の9月13日までの海鳥位置情報を基に,15日に北緯40度50分,東経145度25分にて漁場探索を実施した。その結果,10羽程度の小規模なオオミズナギドリの鳥群を同海域にて発見したが(図1),その周辺にカツオ魚群は確認されなかった。

②衛星情報を活用した探索効率向上の検討
(株)環境シミュレーション研究所が開発したカツオ漁場予測システム「大漁案内人」をもとに,宮崎県が運用している「大漁案内人3」を活用し,東経150度以西の海域において,本システムの漁場予測結果と実際のカツオ漁場との関連性について調べた。本年度の9月以降の東沖操業では,これまであまり操業がされていなかった沿岸に近い海域(東経141度~142度付近)で漁場が形成された(図2)。本システムは東経150度以東の漁場予測を示しており,本調査の主眼である沿岸に近い漁場は予測されず,本システムの有効性について確認するに至らなかった。他方,近年秋季の漁獲量減少による漁期終了が早期化している。このような問題を解消するためにも効率的な漁場探索技術の開発が急務である。

(2) 燃油消費量の実態把握
 補機関に設置した過給圧センサから漁撈機器駆動時および船内電源使用時の燃油消費量の計測を行った。本船は補機関を2機搭載しており,1台ずつ交互に運転している。それぞれの機関ごとに燃油消費量を解析した。その結果,機関室送風機・室内照明,冷凍機,冷水機が全体の約60%を占め(図3),これらの特性を把握することによって燃油消費量削減につながることが期待される。
図3 No.1補機関とNo.2補機関の燃油消費量内訳

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8 平成28年度海洋水産資源開発事業(小型機船底びき網:久慈浜地区)の調査概要
調 査 船:忠宝丸(14.93トン)
※用船期間 平成28年9月、10月
調査期間:平成28年4月~平成29年3月
調査海域:茨城県沖合海域

本調査の目的
 茨城県久慈浜地区をモデルとして,「新操業方法の開発」,「資源の持続的利用方法の開発」及び「漁獲物の価値向上」に関する調査を行い,得られた結果を統合して,小型底びき網漁業を持続可能なビジネスとすることを目的とする。また,調査の成果を広く紹介することで,全国の当該漁業の課題解決に寄与することも目的とする。

本年度調査の主な成果等
(1) 新操業方法の開発
 平成28年度は,平成27年度調査の知見と,漁具検討委員会における漁業者の意見を取り入れ漁具の改良を行い,その漁具を用いて調査を行った。平成28年度に作成した「新型漁具2網」の張力(抵抗)は漁業者が使用している「既存漁具軽量型網」とほぼ同じ値を示し,オッター間隔,袖先間隔は平成27年度実験値を上回る場合が多い傾向が見られ,さらに網口高さについては実操業において支障の無い値を達成していた。燃油消費量については漁業者が通常使用している漁具(網),副漁具を用いて曳網した場合と比べると,「新型漁具2網」の漁具(網),副漁具を用いて曳網した場合は約5%程度減少できることが判明した。また,「新型漁具2網」の選別性能については,漁獲物(貝類を除く魚類)がゴミと共に石抜きへ相当量混入し,漁獲物(魚類)に損傷が生じる事例が数回確認されたが、石抜きを前方へ移動する改良を施した「新型漁具2改良網」において改善された。このようなことから,「新型漁具2改良網」は実操業に耐えうる漁具になったと考えられ,省力化と省エネ操業について概ね達成したものと考えられた。
(2) 資源の持続的利用方法の開発
 久慈浜地区の底びき網漁業の漁獲対象魚種を把握するため,1992年漁期(底びき網漁期:9月~翌年6月)から2014年漁期の23漁期について,茨城県水産試験場漁獲情報システムの統計データを基に,漁獲物の魚種別水揚げ量組成を集計し,平均漁獲量をもとに順位つけを行った(表1)。久慈浜地区の特徴として水深150~300mの沖合を操業するため,ヤナギダコ,シライトマキバイ,アカガレイ等当該水深帯に主に分布する魚種が上位を占めている。この集計結果から得られた上位20魚種について,漁場利用実態,資源動向等の解析を行った。
 また,2015年漁期の漁獲量を整理した(表2)。上位の魚種組成は上記結果とほぼ同じであるが,震災以降好漁が続くヤリイカが1位(過去平均3位),資源が高位にあるヒラメ3位(同14位),ムシガレイが11位(同ランク外)にランクされたことが特徴としてあげられる。更に、県内4地区4隻の漁船に操業日誌の記入を依頼し,操業位置,時間,漁獲物等のデータを収集した(標本船調査)。次いで2015年漁期(2015年9月~2016年6月)についてデータを整理し漁場の利用実態を明らかにし、整理したデータは,操業シミュレーションモデルの中に資源モジュールとして組み込み,魚種別漁獲量、金額を予測するためのデータとして利用した。
(3) 漁獲物の価値向上
 久慈浜地区小型底びき網漁業では、漁船に冷海水装置を導入して漁獲物を保冷する取り組みが行われている。平成27年度の調査では、水産業界で初となる赤外線サーモグラフィカメラを用いた水産物の表面温度把握に係る調査を行なった(図1)。視覚的に温度の影響を把握できることから、市場関係者や茨城県から高い評価を得ることができた。また、小型底びき網漁船による漁獲物の品質変化を確認するために3つの流通経路について温度履歴の把握や鮮度測定の実証試験を行なった。これらの実証試験を通して、消費者に水産物の鮮度情報を伝えることで商品の信頼を確保するツールとして、小型底びき網漁業による漁獲物を対象とした鮮度管理方法について検討を行った。平成28年度事業では、27年度未実施の流通経路についても実証試験を行なった。更には、シャーベットアイス(SI)製造デモ機を導入して、シャーベットアイス(SI)を利用した水産物の品質評価にも取り組んだ。

図 1スチール箱+シャーベットアイス(SI)(下氷)(右写真:サーモグラフィ)

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9 平成28年度海洋水産資源開発事業(定置網)の調査概要
調 査 船:鈴丸(9.91トン)
調査期間:平成28年4月~平成29年3月
調査海域:興津岬から井ノ岬にかけての
       高知県黒潮町鈴沖合海域

本調査の目的
定置網漁業は,海に面する全都道府県で営まれ,沿岸漁業の総漁獲量の約4割を占める,我が国の代表的な漁業の一つである。定置網を対象とするこの事業の調査地は,乗組員の高齢化,新規就労者確保に悩む鈴共同大敷組合(高知県幡多郡黒潮町鈴:図1)とした。この解決のために,現状の漁労・選別作業,網の保守管理作業の省人・省力化と利益の増大を目指した新たなビジネスモデルを提案する。

本年度調査の主な成果等
   (1)対象資源に関する調査は、漁獲物の季節別組成の把握を中心に実施した。結果、マアジ、ブリ、タチウオ等が重要魚種であることが判明した。また、出荷対象とならない小型のさば類等が時期的に漁獲されることも判明し、それらの有効利用方策の検討が必要と考えられた。
(2)操業に関する調査では、1)作業実態把握、2)現状網の設置状況把握と沖出し想定位置における漁場の可能性評価を実施した。結果、漁獲,水揚げ・選別,網の保守管理作業等について1日・年間の作業工程はAM6:30~PM2:30、9月~7月であること、毎日昼網を実施すること、作業人員は9~11名必要であること等を把握した。現状網設置付近及び沖出し想定位置の漁場環境把握のため、現状網設置付近(水深35m)、沖出し想定位置(水深55m)の中層に小型電磁流向流速計を設置し,流向・流速を観測(図2)。また、それらの魚群量を比較・評価するため魚探ブイも設置。さらに、現状網の箱網等に深度ロガーを複数設置し網深度変化を計測した。結果、弱い潮でも網が吹き上がる現象を把握した(図3)。そのほか、北海道大学に委託し,船舶を用いた計量魚群探知機調査を実施。冬場は岸側、夏場は沖側の魚群豊度が高いことを把握した。
(3)漁獲物の価値向上に関する調査は、高知県に委託し、県内外での販路拡大に向けた取り組みを中心に実施した。大都市圏への直接出荷や飲食店への直販等、高知市での鈴大敷漁獲物の認知度向上(写真1)、脱血神経締めなどによる漁獲物の鮮度保持の取り組み等を行った結果、これらは販路拡大に一定の効果を及ぼす可能性のあることが判明した。
図2 観測機器設置個所


図3 現状網付近潮流と網吹き上がりの関係

写真1 漁業者による販売(高知市内)


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