(4)以上のことから,少なくとも当該海域のような操業条件下では,水中灯を併用することによって充分な燃油消費量節減に結びつくような船上灯出力の削減を実現することは困難であることが明らかとなった。
今後は,より低出力での操業を実現するため,部分的な導入が始まっているものの本格的な普及に至っていないLED船上灯について,実用性を高めるための技術開発に取り組む必要がある。
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5 遠洋かつお釣(太平洋中・西部海域)
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調査船:第31日光丸(499トン)
調査期間:9月〜3月
調査海域:太平洋中・西部海域 |
本調査の目的
遠洋かつお釣漁業における効率的な資源利用のため,漁場探索能力の向上及び省エネ・省コストを企図したシステムの改良等を行うと共に,カタクチイワシ利用技術の高度化を図り,当該漁業の経営の安定と持続的な発展に資する。特に南太平洋海域における採算性の高い操業形態の追求を主たる目的として調査を実施する。
本年度調査の主な成果等
遠洋かつお釣漁業は,まき網漁業との競合及びカツオ資源の来遊不安定に加え,燃油価格の高止まり傾向も重なり,厳しい経営状況にある。平成24年度の稼働隻数は22隻で,燃油価格の高止まりと稼働隻数の減少により,漁場探索及び操業水域の狭隘化を引き起こし,漁海況に関する情報量の低下を招いている。このため,新しい探索技術や燃料消費量削減技術等の開発が望まれている。そこで本調査では,衛星情報等を活用した漁場探索技術の開発及びカタクチイワシの適正飼育により燃料消費量を削減する技術の開発等に取り組んだ。
衛星情報等の活用に関しては,タスマン・ニュージーランド海区のガスコイニ海山(36°S, 156°E)付近に,水色3〜4(クロロフィル濃度0.094mg/l〜0.190mg/l)に相当する水域と中層(20m深)水温図上の水温勾配帯が重なった12月中旬以降にカツオ漁場が形成されていた。特に漁獲量が増加した12月下旬以降は中層水温図上に認められる暖水舌が,ガスコイニ海山周辺で反時計回りの渦を形成しており,衛星情報による漁場探索の可能性が示された(右図)。
カタクチイワシの適正飼育に関しては,これまでの取り組みで得られた知見から,船上での適正な飼育条件(水温20℃,有害アンモニア濃度0.48ppm以下,DO4mg/L以上)を明らかにし,日本近海海区でその省エネルギー効果を検証した。その結果,冷却用の冷凍機の負荷軽減に加え,漁場水温及び飼育水温が一致した際に冷凍機を約220時間停止することができ, 約8.9klの燃料削減効果が認められた。
本年度調査の主な成果等
タスマン・ニュージーランド海区の試験操業結果は当業船の漁場選定に活用されている。また,カタクチイワシの適正飼育に関しては,当業船7隻が実操業へ導入を開始している。今後,当該手法をさらに普及させるためには,実証データの蓄積を行うとともに,マニュアル等の分かりやすい方法で明示していく必要がある。
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6 北太平洋さんま漁業(北太平洋中・西部海域)
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調査船(操業船):第一榮久丸 (198トン) 第三十七傳丸 (167トン)
第十五三笠丸 (169トン)
調査船(運搬船):第十八漁栄丸 (199トン) 第十一権栄丸 (199トン)
調査期間:5月20日〜7月31日
調査海域:北太平洋中・西部海域(公海域) |
本調査の目的
(1)平成19年度から調査を行い,これまでに,公海域でもサンマ操業が可能であるが,漁場が遠いこと,広範囲に魚群が分散すること,近海域に比して灯付きが悪いことのそれぞれに対応する必要があることが明らかとなった。漁場の遠さへの対応としては,運搬船を利用することで操業船の漁場滞在期間を長くできるとともにより遠方漁場も利用でき,漁獲量増大の効果があることを明らかにした。
また,フィッシュポンプを用いた運搬船への漁獲物転載技術を確立した。
以上を踏まえ,本年度調査では,主として以下の各課題に取り組んだ。
? 広範囲に魚群が分散することに対応するための衛星情報利用技術の開発
? 灯付きの悪さに対応するための水中灯利用技術の開発
? 運搬船利用技術開発の一環としての運搬船での製品生産体制の検討
(2)衛星情報利用技術に関しては,これまでに利用してきた表面水温情報に加え,海面高度情報の利用可能性を検討し,海面高度の急な高まりの裾野付近で好漁場が形成される傾向がみられ,探索指標としての有効性が示唆された(図1)。
(3) 水中灯利用技術に関しては,船上灯を併用せず,LED水中灯(青緑色2kW×1本)のみを使用した場合には灯下に魚群を誘導して保持する効果がみられた(図2)が,船上灯の点灯中にはこれを補って灯付きを改善する効果は得られなかった。今後,水中灯を単独で使用する集魚ブイ方式の可能性について検討することとする。
(4)輸出向けを想定した凍結製品の運搬船での試験生産を行い,製品品質は転載前漁獲物の保蔵期間や保蔵状態に左右されることから,品質確保と効率的生産の両立のためには,用途・市場に応じた品質要件を明確にする必要があることを確認した。また,操業船の航海期間を通じて製品保蔵能力を維持するため,操業船において次第に不足する氷の補給手法を検討し,さんま漁船の多くが搭載している氷移送装置による船間転載が可能であることを確認した。
(5)公海操業の実現のためには,探索と集魚の技術開発をさらに進めることで操業の効率化を図るとともに,海外などの市場開発と市場に応じた効率的生産体制の確立が課題である。
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7 沖合底びき網((日本海西部海域)
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調査船:大福丸(76トン)
調査期間:4月〜10月(禁漁期間である6月〜8月を除く)
調査海域:日本海西部(主に隠岐諸島周辺および隠岐諸島西方海域) |
本調査の目的
沖合底びき網漁業を対象に,資源管理や経費削減を企図した漁具の改良や開発を行うことにより,本漁業の持続的発展に資する。
本年度調査の主な成果等
(1) 日本海西部の沖合底びき網漁業において,漁業生産金額に占めるズワイガニの割合は5割弱であり,本種の資源状態が漁業経営に与える影響は非常に大きい。そのため,本種の積極的な保護を目的として,ズワイガニの禁漁期間中における混獲を回避するための漁具の開発と導入が求められている。このことに対応するため,前年度は主に隠岐諸島東方海域でズワイガニ混獲回避漁具の開発のための試験操業を実施し,当該漁具の有効性を確認したが,漁獲対象魚種や底質等の漁場環境が異なる隠岐諸島西方海域への対応が課題として残された。そこで本年度は,混獲回避漁具の汎用性を高め,広範囲にわたる導入の促進を目指して,他漁場でも利用可能な漁具の開発・実証化に取り組んだ。
(2) 調査に用いた混獲回避漁具は,大福丸が通常使用している漁具を基本とし,ズワイガニの混獲を回避するための開口部を腹網に,漁獲物を分離するための選別網を網口付近に,それぞれ設けた構造とした(図1)。
開口部にはカバーネットを装着し,袋網とカバーネットに入網したズワイガニとソウハチの重量を操業毎に測定した。そして,各操業のカバーネットに入網した重量割合を平均することにより,ズワイガニの排出割合とソウハチの逃避割合を算出した。
(3) 主に選別網周辺の仕様を調整しながら試験操業を行い,かけまわし漁法におけるズワイガニとカレイ類の入網経路の違いを考慮して,選別網の脇網への取り付け位置と前端中央部の高さを決定することが重要であることを明らかにした。
この漁具では,ズワイガニの排出が80%および60%の場合,ソウハチの逃避はそれぞれ25%および9%程度であると見込まれる。
(4) 2か年の調査結果から,既存漁具の網口付近に選別網を設置して魚種の分離を行う本方式の混獲回避漁具について,推奨する仕様を整理した(図2)。選別網周辺の各仕様を変更することによって選別性能を調整することが可能であるため,ズワイガニ資源の増大に向けた排出目標を定めた上で漁具仕様を決定し,効率的に運用することが期待される。
成果の普及状況
調査海域を漁場として利用する鳥取県の当業船27隻中,17隻が当該漁具を既に導入済または導入見込である(平成25年4月現在)。
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8 ひきなわ:タチウオ(豊後水道周辺海域)
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調査船:豊漁丸(4.3トン)新光丸(4.2トン) 6月〜10月
正福丸(4.3トン)喜久吉丸(4.2トン)11月〜12月
用船期間:平成24年6月〜12月(8月は除く)
調査期間:平成24年6月〜平成25年3月
調査海域:豊後水道周辺海域 |
本調査の目的
沿岸域における漁船漁業について,資源状態を把握しつつ経費の削減と漁獲物の単価向上による収入増を実現し,資源を持続的に利用しながら収益性の改善と経営の安定化を図る。本年度は,昨年度に引き続き大分県臼杵地区のタチウオひきなわ漁業を対象に当該漁業の経営改善と持続的発展に貢献する調査を行う
本年度調査の主な成果等
(1)操業の効率化
1人でも操業が可能とするための技術開発として,昨年度で得られた結果に基づき,船上台秤及び投縄装置を外部に委託して開発を行い,船上台秤は特許として,投縄装置は実用新案として申請した。生餌と同等の釣獲能力を有する擬似餌の開発についてメーカーと漁業者との共同研究を昨年度に引き続き行った結果,従来より大きい6インチ型新擬似餌は,耐久性が優れているだけでなく,タチウオの小型個体の釣獲を抑えることも確認され,資源保護にも効果があることが期待される。これらの機器類は各メーカーにより既に販売されている。また,これらの機器類の開発により,労力が軽減されるとともに,安全を確保した操業が可能となった。今後は,経済効果の検証や資源への貢献についての検証を行うこととしている。
(2)タチウオの単価向上
タチウオの販売単価向上を企図し,昨年度に設置した地元行政,研究,市場,加工流通,生産の各部門の担当者からなる専門部会の運営を大分県に委託し,中央水産研究所等の専門家によるアドバイスを受けて販路拡大に向けた検討を行ってきた。
その一環として,地元の高等学校とも連携した臼杵産タチウオの地元への普及や,臼杵市,漁協,加工業者と地元での市場開拓に取り組んだ結果,弁当の商材として商品化され,既に販売されるに至った。また,タチウオの集積地である福岡地区での消費者動向や卸関係のニーズ把握にも取り組んでいる。
(3)資源の有効利用に関する取り組み
資源の持続的利用については,大分県に委託し,瀬戸内海区水産研究所とも連携を行うことにより,タチウオ資源の持続的利用に向けた調査を行った。また,今年度より計量魚探による調査にも取り組んでおり,適切な資源管理方策に向けた検討も行っている。
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本調査で開発した漁労機器類(左から船上台秤、投縄装置、新擬似餌)
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9 遠洋底びき網(南インド洋西部公海域)
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調査船:玉龍丸(284トン)
調査期間:11月〜1月
調査海域:南インド洋西部公海域 |
本調査の目的
遠洋底びき網漁業を対象に,漁業資源の持続的利用と脆弱な海洋生態系の保全の双方に配慮した操業手法を開発することにより,本漁業の持続的発展に資する。
本年度調査の主な成果等
(1)南インド洋西部公海域においては,水産総合研究センターが平成21-22年度に実施した漁場開発調査結果に基づき,日本漁船によって,中層トロール漁法を用いた企業的操業が行われている。この中層トロール漁法は,VME(脆弱な海洋生態系)への影響が極めて低い点で優れているものの,我が国以外の関係漁業者等からは,キンメダイの小型魚の漁獲比率が高いとの懸念も表明されている。こうした背景のもと,本調査では,小型魚に偏らないバランスの取れた操業形態の確立に向けた基礎的情報とするため,有用魚種に対する漁具及び漁法の選択性を明らかにすることを主目的とした調査を行った。
(2)調査船の保有する通常コッドエンド(公称目合外径120mmの二重網。実測内径97mm±4mm)と,比較用コッドエンド(目合外径200mmの二重網。実測内径175mm±0mm)とを用いて,着底トロール漁法による比較操業を行った。主要魚種であるキンメダイ(Beryx splendens),クサカリツボダイ類の一種(Pseudopentaceros richardsoni)のいずれも,漁獲量は200mm目合の方が少なかったが,目合間で魚体サイズの差は見られなかった(図1)。
(3)中層トロールと着底トロールの間での漁獲物のサイズ組成の差異を検討するため,平成21-22年度に当センターが行った調査における中層トロール漁具(公称目合外径110mmの一重網)を用いた操業との間で,キンメダイの尾叉長組成を比較した。その結果,両調査における本種の尾叉長組成には差異は認められなかった(図1,図2)。両調査におけるコッドエンド仕様の違いや,年や季節による違いが作用した可能性もあるが,中層トロールによって小型魚が選択的に漁獲される傾向は確認されなかった。
(4)混獲魚種およそ30種のサンプルを採取した。平成25年度に,これらの種を査定して混獲魚種相を把握し,底生魚類資源の開発可能性について検討する。
(5)海山群別に主対象魚種であるキンメダイの魚体サンプルを採取した。平成25年度に,このサンプルを用いて年齢と成長等の資源生物学的情報を分析し,南インド洋漁業協定において本種の資源管理方策が検討されるにあたって,我が国が科学的対応を行うための基礎的資料として整備する。
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10 大中型まき網 (陸上調査)
本調査の目的
大中型まき網漁業において、漁獲対象資源への負荷低減及び収益性改善のための操業システムの省コスト化を図るとともに、地域漁業管理機関の定める規制への技術的対応を検討する。
本年度調査の主な成果等
大中型まき網漁業の操業形態は,多投資多獲型の船団操業が主流であり,燃油価格の高騰不安定などにより,安定経営が難しい状況にある。北部太平洋海区では,水研センターによる2隻体制からなる操業システムの実証化調査を受けて,漁業者自身による取り組みが行われているが,更なる効率化に繋がる先進的な漁業技術の開発・実用化が望まれている。
漁獲対象の資源は回復途上にあり,また来遊状況は不安定であることから,今後,漁獲増による収益向上は見込めない。
以上から,多獲性魚類の持続的利用の実現と漁業経営の安定を両立するため,資源への負荷低減を実現しうる省エネ省コスト型の操業システムの構築に係る要素技術について検討を進めた。
操業技術及び漁具の改良を図ることによる操業の効率化及び経費の節減のため,水中におけるまき網漁具の挙動を正確に把握する。まき網操業技術の可視化への取り組みを開始した。この技術の核となるまき網漁具の水中動態シミュレーション技術(NaLA)は近畿大学と日東製網が所有していることから,3者での共同研究を行った。
海外まき網の新漁法であるブイライン操業法を対象に,まき網の各ワイヤーの繰り出し・巻き込み速度・線長や,各操業段階のタイミング等の正確な測定値を取得し,NaLAプログラムにより高精度で操業状況を再現できる可能性を示す結果を得た。

図 ブイライン投網法のシミュレーションの一例
今後は更に測定データ箇所及び種類を増やすとともに,取得データを活用したシミュレーション結果の再現性を評価し、必要に応じてパラメータ設定の改善を行う。
また,東シナ海・黄海の大中型まき網漁船船団(網船,灯船,運搬船の4〜5隻)において年間4000KL前後消費されている燃油量の削減手法を検討した。年間消費量が全体の約6割を占める運搬船に着目し,平成24年12月に7回行われた運搬航海のうち,入港してすぐに水揚げを行えなかった5回の航海において2ノット程度の減速運転をしたと仮定した場合の省エネ効果を試算した。減速航海をした場合,30%程度の省エネとなるので,上記1ヶ月では運搬船1隻で金額にして40万円弱(燃油単価:90円/KL)の省エネ効果になると試算された。当該まき網船団は2隻の運搬船を利用し,年間50回以上の運搬航海を行っていることから,当該手法は経費削減に一定の効果のあることが示唆された。
成果の普及状況
日本遠洋旋網漁業協同組合で検討されている地域プロジェクトの課題のひとつとして,水揚げまで長時間の待機時間が見込まれる場合に,運搬船での水揚げ航海において減速運転を行うことが計画されている。
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